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京都の喫茶店と聞いて、皆さんはどのお店を思い浮かべますか。
1940年創業のイノダコーヒ。1932年創業のスマート珈琲店。そして、珈琲家あさぬま、六曜社、前田珈琲。京都には、半世紀を超えて街とともに歩んできた喫茶店があります。
名前を聞くだけで、コーヒーの香りや、お気に入りの席を思い浮かべる方もいるでしょう。長く続くお店には、訪れる人それぞれの「いつもの時間」があるのかもしれません。
では、その時間をつくってきた店主たちは、どのような思いでお客様を迎えているのでしょう。
京都の喫茶文化を支えてきた3人の店主が集まる鼎談が開かれると聞き、そのお話を伺いに出かけました。
10月16日(金)、中京区の「前田珈琲 御池店」で開催されたのは、『京都が誇る喫茶文化を未来へ 〜一杯の珈琲から始まる、世代を超えた語り〜』。
京都市中京区役所が主催したこのイベントには、前田珈琲の前田剛さん、珈琲家あさぬまの浅沼健夫さん、六曜社の奥野薫平さんが登壇。進行役は甘党茶屋梅園の西川葵さんです。
前田珈琲は1971年創業、あさぬまは1947年、六曜社は1950年。いずれも京都の街とともに長い年月を重ねてきた喫茶店です。
京都の文化や仕事を、そこで活躍する人たちの話から知る。そんな学びと交流の場を広げようと、京都市が進めているのが「京都学藝衆(がくげいしゅう)構想」です。今回の会も、その取組のひとつ。年齢や立場を問わず、興味のあることを一緒に学び、語り合うきっかけをつくっています。
目指しているのは、学んで終わることではなく、人と人とのつながりを育み、京都で受け継がれてきた文化や魅力を次の世代へつなげること。今回は、日々の暮らしに身近な喫茶店を通して、その文化を育んできた方々の話を聞く機会となりました。
今回参加されたのは、多数の応募の中から抽選で選ばれた20人の皆さん。まずは登壇者の皆さんと一緒に、モーニングを楽しみました。
この日のメニューは、前田珈琲で長年親しまれている「イギリスパンセット」。トーストに、たっぷりのキャベツが添えられています。
前田さんによると、毎日通うお客様には、パンをよく焼く、耳を落とす、コーヒーを多めにするなど、それぞれのお好みがあるそうです。
同じセットにも、一人ひとりの「いつもの朝」がある。
メニューには同じ名前が載っていても、運ばれてくる一皿には、お店とその人との日々の関わりがあるのですね。喫茶文化という言葉が、さっそく少し身近になった気がしました。
朝食を楽しんだ後は、いよいよ鼎談へ。3人のお話に耳を傾けます。
登壇者の紹介を終え、進行は甘党茶屋梅園の西川さんへ。会場の視線が集まるなか、まずは、それぞれのお店の始まりをたどるところから、話が始まりました。
最初に西川さんが尋ねたのは、前田さんのお父様が、どのような思いでお店を創業されたのかということ。
前田さんによると、お父様はイノダコーヒで修業した後、お母様と二人で小さなお店を始めたそうです。一方、前田さん自身は、初めから家業を継ぐと決めていたわけではなかったのだとか。店を手伝うようになってからも、お父様とは違うやり方を模索してきたといいます。
続いて奥野さんから語られたのは、六曜社の始まりにつながる、祖父母の出会いのお話。戦時中の満州で出会った二人が、戦後、京都で落ち合った場所が、現在の六曜社の地下店だったそうです。その場所で店を続けることを大切にしているという言葉にも、うなずけます。
浅沼さんのお話では、かつて京都にあった喫茶店の名前が次々に登場しました。庭や噴水のある店、接客の装いに工夫を凝らした店。それぞれがコーヒーだけでなく、お客様に喜んでもらえる空間やサービスを考えていたといいます。
お店の歴史を聞いているうちに、話は、そこでお客様にどう過ごしてもらうかという「居場所づくり」へと広がっていきました。
(左から)奥野さん(六曜社)・前田さん(前田珈琲)・浅沼さん(珈琲家あさぬま)・西川さん(甘党茶屋梅園)
前田珈琲では、お客様を「いらっしゃいませ」ではなく「おはようございます」で迎えるそうです。常連のお客様なら、席に座るだけで、いつもの注文が伝わることも。お客様同士も、名前は知らなくても、読み終えた新聞を次の人へ手渡す。そんな朝の光景があるといいます。
名前は知らなくても、同じ朝を過ごしている人がいる。挨拶があり、いつもの注文があり、新聞が隣へ渡っていく。その光景を思い浮かべると、お店の居心地は、そこにいる人たちの振る舞いからも生まれているのだと感じます。
浅沼さんが喫茶店に重ねるのは、「峠の茶屋」という存在です。休みたくなったときに、財布の中を計算せず、すっと入れる場所でありたい。コーヒーとともに、憩いや安らぎ、語らいの場を提供しているというお話でした。
そして奥野さんが大切にしているのは、コーヒーそのものだけではなく、そこで人が過ごす豊かな時間。
お店の始まりも、経営の考え方も、それぞれ違います。それでも、お話を聞いていると、お客様が過ごす時間を大切にしていることが伝わってきます。
コーヒーを飲みに来た人が、どんな気持ちで席に座り、どんな気持ちで帰っていくのか。一杯の向こう側にある、店主たちのまなざしが見えてきました。
喫茶店で一杯のコーヒーを注文し、新聞を読んだり、友人と話したり、ひと息ついたり。コーヒーを味わうことと、その場所で過ごすことは、私たちにとって自然につながっています。
居心地がよければ、つい長居したくなることもあるでしょう。では、その心地よい場所を続けていくためには、どんなことが必要なのでしょうか。
西川さんから、お店を続けていくうえでお客様に大切にしてほしいことを尋ねられると、奥野さんは、滞在時間とおかわりの話を挙げました。
「お客様の時間が主役」という思いから、自由に、長く過ごしてほしい。その一方で、例えば一杯500円で2時間過ごすとなると、経営の面では難しさが生まれるといいます。
六曜社では、一杯で2時間ほど過ごしている方に、そろそろ席を譲っていただけますかと声をかけることもあるそうです。その場所は、一人のお客様だけのものではないからです。
一方、今は大学生のお客様も多く、自然におかわりをしてくれる方が多いのだとか。好きなお店のために何ができるか、お客様も考えてくれているのだろうと、奥野さんは受け止めています。
このお話を聞いて、先ほどの新聞を手渡す光景を思い出しました。次に読む人がいるように、次にその席で過ごす人もいる。自分がくつろぐ場所に、ほかの誰かも居合わせている。そのことへの気配りも、喫茶店の日常を支えているのですね。
そして会の最後には、奥野さんから会場へ、日常使いのコーヒーはいくらまでなら気軽に飲めるか、問いかけがありました。
コーヒー豆の価格が高騰するなか、その上昇分を一杯の値段になかなか反映できていない。六曜社でも、この10月に一杯700円となったそうです。それは苦渋の決断だったといいます。
600円なら。700円なら。では、650円なら。
登壇者からの問いかけに、会場からは700円を「ちょっと高い」と感じる声もありました。毎日のように通うお客様にとって、気軽に飲めることも大切なのでしょう。
気軽に通ってほしいという思いと、店を続けていくために必要なこと。普段、メニューを見て注文する私たちには見えにくい、その間で考え続ける店主の姿がありました。
お店が思いを話し、お客様も率直に応じる。こうして顔を合わせて言葉を交わせることにも、今回の会ならではの意味を感じました。
今や、街にはさまざまなスタイルのコーヒー店があります。
手軽に利用できるチェーン店もあれば、店主の個性が色濃く表れた個人店もあります。短時間でコーヒーを飲みたい日もあれば、ゆっくり腰を落ち着けたい日もある。誰かと話したい日も、一人になりたい日もあります。
その日の気分や目的によって、選ぶお店が変わるのも自然なことです。
奥野さんは、大手がコーヒーを広める役割も認めたうえで、お店にはそれぞれの価値があると話しました。そして、画面上の情報だけで判断せず、一度お店へ足を運んでみてほしいとも。
確かに、お店の写真やメニューは、訪れる前にも調べられます。でも、その席に座ったときにどう感じるかは、行ってみて初めてわかることなのでしょう。自分の好きなお店を見つける楽しみは、そんなところにもありそうです。
一方、京都には半世紀以上にわたって営業を続けてきた喫茶店があります。その間、街の風景も、人々の暮らしも大きく変わりました。それでも、店の扉を開ける人がいて、コーヒーを淹れる人がいる。
長く続くお店のお話を聞いていると、これまで受け継いできたものと、これからやってみたいことの両方が語られるのも印象的でした。
前田さんからは、高齢の方が外出し、おいしいものを食べ、スタッフと話すきっかけになる「社会インフラ」として、喫茶店の役割を後押ししていきたいというお話もありました。
いつものお店があるから、今日も外へ出かけようと思える。そこで食事をし、誰かと言葉を交わす。毎朝の「おはようございます」が、暮らしの中で持つ意味を、改めて考えさせられます。
長い歴史を持つ喫茶店が、これからの暮らしをどう支えていくのか。お話は、街の未来へもつながっていました。
今回、3人のお話を聞いて印象に残ったのは、浅沼さんが学生時代、お客様から一日に何回「ありがとう」と言ってもらえるか挑戦した、というお話でした。
水を注ぐ、食器を下げる。そんな小さなやり取りに返ってくる言葉が、働く喜びになるのだそうです。
お客様が心地よく過ごせるようにと動く人がいて、それを受け取って「ありがとう」と返す人がいる。お店の人にとっても、お客様とのやり取りが、日々の喜びになっているのですね。
名前を聞けば、空間やコーヒーの香りが思い浮かぶ喫茶店。そのお店らしさは、建物や調度品、コーヒーの味とともに、そこで毎日繰り返されている小さなやり取りからも生まれているのだと、今回のお話を聞いて感じました。
よく焼いたトースト。座るだけで伝わる注文。次の人へ手渡される新聞。そして、おかわりの一杯。
店主のお話を通して見ると、何気ない光景の一つひとつに、人と人との関わりがありました。そうした毎日が積み重なって、京都の喫茶文化は続いてきたのでしょう。
身近なお店のことを、私たちは知っているようで、まだ知らない。今回の会は、喫茶店を通して京都を学ぶとともに、普段の暮らしを見直すきっかけにもなりました。
次に喫茶店の扉を開けるときは、いつもより少し、迎えてくれる人や、そこで流れる時間にも目が向きそうです。
さて、次の一杯。
皆さんは、どこの喫茶店で過ごしますか?
前田剛さん(有限会社前田珈琲 代表取締役)
――喫茶店の可能性を、自分のやり方で

鼎談では、前田さんのお母様の接客ぶりも話題になりました。朝から店先に立ち、お客様を迎えて店内を切り盛りする姿を、浅沼さんも印象深く見ているそうです。満席でも、もう間もなく席が空くと案内する、というエピソードも。前田さんも「母親ファンも多いですけど、めちゃくちゃ怖くてね」と応じ、お母様の人柄の一端を紹介されました。
そんな前田さん自身は、もともと家業を継ぐことを強く意識していたわけではなかったそうです。理系の大学へ進み、やがて店を手伝うように。ただ、お父様と同じやり方には収まりませんでした。
転機となったのは、旧明倫小学校の京都芸術センターでの出店。古い洋館とコーヒーの相性に魅力を感じ、その後、京都文化博物館別館などへと縁がつながりました。何店舗に増やそうという目標があったのではなく、声をかけてもらった先に、喫茶店をやってみたいと思える建物があった。文化とコーヒーの接点に、ご自身の道を見いだしてきた方です。
浅沼健夫さん(株式会社アサヌマ(珈琲家あさぬま)代表取締役)
――京都の時間を、大きな目盛りで語る人

外国人観光客が増える京都をどう考えるか。その話題に浅沼さんが返したのは、なぜ今さら慌てるのか、という問いでした。
平安の都へやって来た人々、戦国時代の宣教師、江戸時代に京都を訪れた異国の人々へ。話の時間軸が、一気に広がります。京都まで行ったことが、帰国後の自慢にもなる。そんな歴史を語りながら、今まで続けてきたことに自信を持てばいい、と語りかけました。
かつての喫茶店の話になれば、店名だけでなく、庭や噴水、接客の装いまで次々に浮かんできます。コーヒー以外にも、お客様を喜ばせる工夫を凝らした店があった。その記憶の豊かさは、まさに京都の喫茶文化の生き字引。
変化を何度も見てきた人の言葉には、目の前の出来事だけで慌てなくてもいいと思わせる、大きな時間の流れがありました。
奥野薫平さん(株式会社六曜社 代表取締役)
――「お客様を選ぶ」の、その先にあるもの

「お客様をある程度選ぶ」。奥野さんは、誤解を招くかもしれないと断りながら、その言葉を口にしました。
守りたいのは、さまざまな人が同じ空間で過ごせる喫茶店です。相席なら荷物の置き方に気を配る。長く過ごすなら、おかわりや次に座る人のことも考える。お客様の要望すべてに応えることが、必ずしもその場所を大切にすることにはつながらない。だから、店の考えも伝えるのだといいます。
その前提にあるのが、「お客様の時間が主役」という思いでした。一人の自由と、居合わせた人の心地よさ。その両方を守るために、店主として言うべきことを言う。
「この空間を守ることはお客様と一緒にやっていきましょうね」。飾らない言葉の奥にあったのは、お客様にも、この場所をつくる仲間であってほしいという願いでした。
京都の歴史や文化、暮らしの魅力に触れ、学び合う機会を創出する京都市の取り組みです。本記事で紹介した「京都が誇る喫茶文化を未来へ」も、そのプログラムの一環として開催されました。
▶ 京都市中京区「京都が誇る喫茶文化を未来へ ~一杯の珈琲から始まる、世代を超えた語り~」
Writerデジスタイル京都スタッフ
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Writerデジスタイル京都スタッフ
タカラサプライコミュニケーションズではたらく京都大好きメンバー。 定番から穴場まで、幅広いKYOTOの情報をお届けします!
X:@digistylekyoto
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