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【第10回】 現代生活と京町家『市中の山居』

 これまで、京の町家の歴史から機能、デザインまで、京都の暮らしを通じて、職住一体の生活から生まれたひとつの都市生活スタイルであったんだということをお話してきました。
 今回は、もうひとつ、別の生活様式がとりこまれていることをお話します。
『市中の山居』という言葉を御存知でしょうか。言葉通りだと、都市の中にある山の中の住まいとなります。戦国時代の町家の様式の形成過程において、路地(ろうじ)や図子・辻子(ずし)といった小路が発達し、細長い敷地の奥の方まで利用されるようになりました。その利用方法のひとつとして、町衆たちは、蔵をたてたり、そこに「市中の山居」と呼ばれるような草庵風茶室をつくりました。
 日常生活のなかに出家者が暮らすような隠とん生活の場をつくることによって、その対比を楽しみ、また世俗から離れ、別の精神的な環境を整えることによって、数奇(すき)を極めるという、これは、町衆文化独特の究極の「あそび」なんですね。
そして、それはクローズされたものではなく、「茶室」というよりもむしろ「茶屋」といわれています。今でいう、喫茶店とかカフェみたいなかんじでしょう。表通りに面していた茶店を路地で奥の方にさそいこみ、別世界のような演出をするわけですから、本当に粋なはからいです。このスタイルは京都の町に脈々と受け継がれていて、今でこそ、茶室や茶屋ではなく、料亭やバー、カフェであったりするわけですが、こういうところって本当に京都らしいかんじがするんですよね。
 少し前まで、ヨーロッパのエスプリがもてはやされていましたよね。戦争を知らない世代が大多数になり、海外旅行人口も増えました。世界のニュースや情報もリアルタイムで入ってきて、各国の個性あふれる刺激的な文化に出会うことができます。日本において、幕末の文明開化の時代からはじまり、戦後、加速度的に欧米を模範とする文化に追随してきたのですよね。

 ところが、ここ最近のライフスタイルの傾向として、アジアンヒーリングと呼ばれるものがあります。日常生活のなかにヒーリング(癒し)効果のある東洋的な雑貨、インテリアをそろえ、まるで南の島のリゾート地で過ごすような感覚を楽しむものです。
このように日本人は自分達の生活様式のなかに、さまざまな文化をとりいれながら、ライフスタイルをつくりあげてきました。そして、今やエコロジーの時代です。欧米諸国から日本の文化や生活様式が「ZEN(禅)スタイル」といって究極の贅沢としてもてはやされています。
 彼等にとって、とくにその随を極めた京都に対する憧れははかりしれません。そのことに、私達日本人もようやく気がつきはじめたようで、最近の雑誌では京都特集がかなり目立ち、町家ブームもそのひとつと言えるのでしょう。その影響からか、盆栽であったり、すだれや行灯(あんどん)など和文化の生活様式を楽しむようなものも、人気が出ている様です。
 このように、現代の生活において見直されている「癒しの空間」は、すでに戦国時代の京都の町衆たちは上手に取り入れて、「市中の山居」として、精神的にも認識していたんです。私達の想像以上に高度に成熟した都市文化がこの地に存在していたということです。

 21世紀にはいり、ようやくこれから世界基準での日本独自の文化がうまれてゆくのだと思います。そのときに、私達の住まう京都が、世界的に見て1200年以上も文化都市でありつづけていることが、もっと今より注目されていくのではないかと自信を持っています。何よりもまず、私達京都に住まう人がそれを意識することが必要なんです。
新しいものをつねに取り入れながらも、独自のスタイルを育み続けた京文化。そのスタイルを形にしたものが京の町家なんです。これまで現代住宅は、家ありきというハードよりの発想で生産されてきました。これからの時代は、どのように住まうかという、ソフトありきの考え方が必要なんですね。
 京の町家は、そんなことずっと当たり前のように存在してきたんですから、現代住宅をはるかに超えた最先端の住宅概念であるといっても過言ではないでしょう。


京都芸術デザイン専門学校専任講師 冨永りょう

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