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【書評・本と京都】「手のひらの京」

2020/01/20

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=江⾓悠⼦

 

京都人の視点で語られる四季折々の京都

 

 

『手のひらの京』(綿矢りさ/新潮社)

『手のひらの京』(綿矢りさ/新潮社)

 

 

大学編入とともに京都に住みはじめて20数年経つ。「京都に住んでます」と言うと、羨ましがられることも多いけれど、いまだに私は「京都人」ではない。何年住もうが私はあくまで「よそさん」なのである。そんな私が憧れるのが、どうあがいたってなれない生粋の京都人だ。本書の著者・綿矢りささんは京都生まれ。意外にも、綿矢さんが京都を舞台にしたお話は、4年前に刊行された本書が初めてだそう。京都人である綿矢さんの目を通して描かれる京都は、長年住んでいても知らないことがあり、やっぱりいいなと羨ましく思う一方で、その魅力に隠れて見えていなかった、京都の持つ独特の力、裏側があることも知った。

物語は、3姉妹の日常を軸に進む。そろそろ結婚に焦り出すお年頃ながら、のんびり屋の長女・綾香、入社したばかりの会社で恋愛ざたといけず撃退に忙しい次女・羽依、そして大学院に通う三女の凜。本音をなかなか話さないと言われている京都人だが、本書では「京都人の本心は、こんなんやったんや」と思わせる細やかな心理描写がたっぷりと楽しめる。

京都にいながら、もやもやと感じていたことが、物語の中で言語化してあるのも爽快だった。「母親は語尾に“知らんけど”とつけるのが口ぐせだ。断定した物言いを避けたがる、いかにも関西風の口ぐせで、ほかの関西人も使うが、母は特に多い」の“知らんけど”。長く京都に住むうちに私もすっかり口ぐせとなってしまった。この言葉を語尾につけることで、今言った発言に責任を負わなくてよくなるのだ。たぶん、知らんけど。確かに京都人は断定した物言いを避けるというのは肌で感じていて、たとえば京都の友人を何かに誘った際、「行けたら行くわ〜」と優雅に返事をしたとする。来るかなと思って期待するが、この返事のときはたいてい来ない。いや、絶対来ない。こんなことを何度か経験して、「そうか、行けたら行くは、京都風の断るための台詞なのだ」と理解した。

物語には、京都の地名やスポット、四季折々の行事ごともたくさん登場する。休日のお出かけ先として登場する四条、家に帰るまでに通る鴨川、家族みんなで見る大文字焼き(正しくは「五山の送り火」で、そう言わないと京都人に怒られると教えてもらっていたのに、京都人が使っている…!と嬉しい気持ち)。子どもの頃は、琵琶湖を海だと信じていたエピソードもいかにも京都人らしい。この歴史、この文化が根付いた京都で生まれ育ったからこその感性。お話の中には、そうした京都人ならではの特別なエピソードが小さな宝石のように散りばめてある。

いつの頃か、「なぜこんなにも京都に惹かれるのだろう」と考えたことがある。そのときは答えが出なかったのだけど、姉妹のお父さんの言葉に「これだったのか」と腑に落ちた気がした。「確かに父さんも、長年住んでる京都独特の力を感じることはあるな。出張で別の場所からここへ帰ってくると、妙に清々しい気分になる。自分の故郷に帰ってきたからほっとしてる、だけが理由やない、京都の風に身体を洗われる感覚があるな」。似たような体感が、確実に私にもある。そして、それが魅力であると同時に、古い歴史が絡みついて、時間が動いてるようで動いていない、盆地という土地柄のせいか、ほかから守られているとも、隔離されているとも感じられる感覚。そこに息苦しさを感じる三女の凛。住み続けているからこそ生まれる観念だなと思う。これまでずっと、外から京都を見させてもらっていた感覚だったのが、本書を読んで初めて内側から京都を見せてもらったような気がした。

 

 

本を通して見る「京の町」

 

 

 

昭和初期に建てられた元・龍池小学校校舎を活用して作られた「京都国際マンガミュージアム」。お話の中では、長女の綾香の初デートの場所として登場する。「新旧のマンガが約三十万点も揃い、好きな場所で読むことのできる珍しい施設だ。綾香が図書館員なので興味があるんじゃないかと宮尾が配慮してくれた結果だった。〜中略〜二人は思い思いマンガを手に取って校舎前の芝生に座って読みふけった」。広い芝生に寝転がり、マンガを読みふける楽しさ。最後の一文にそうそう、それ!とうれしくなった。地下鉄「烏丸御池駅」からすぐとアクセスしやすく、1人でもカップルでも、ファミリーにもオススメのスポットです。

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江角悠子

ライター:江角悠子

京都在住のライター2人で結成したユニット「コトノトショ」メンバー。編集も手がける。活字中毒で何かしら文字を読んでいないと落ち着かない。インスタグラム(@ezumiyuko_books)に、日々の読書記録をアップ中。

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