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2019.06.28

 

もう一つの寺田屋事件、薩摩藩士の同士討ち。「薩摩藩九烈士殉難の趾」

 

先ほど紹介した寺田屋の石碑は「坂本龍馬先生遭難の趾」の反対側も見てほしいのです。「薩摩藩九烈士殉難の趾」と刻まれています。これが、もう一つの寺田屋事件です。

寺田屋の石碑。向かって右側の側面に「薩摩藩九烈士殉難の趾」

 

薩摩藩九烈士というのは、有馬新七、柴山愛次郎、橋口壮介、西田直五郎、弟子丸龍助、橋口伝蔵、田中謙助、森山新五左衛門、山本四郎(義徳)の9人の薩摩藩士です。

1862年、龍馬の寺田屋事件のわずか4年前の出来事です。同じ寺田屋で、薩摩藩士同士の、「同士討ち」が起こりました。これを、「寺田屋騒動」と言ったりします(本記事では便宜上〝寺田屋事件〟とも呼ばせてもらいますね)。薩摩藩九烈士はこの騒動で亡くなった薩摩藩士です。この9人には、騒動の後で切腹した人を含んでいます。

 

藩同士の対立なら理解できますが、「なぜ同じ藩の人同士が?」と疑問に思いますよね。

これまたとっても複雑なので、できるだけ簡単に説明します。

 

薩摩には、島津斉彬という大変優れた藩主がいました。外国の脅威に対抗すべく大砲を作ったり、娘とした篤姫を将軍に嫁がせたり。先見の明があって、政治力のある、そして人望のある人で、一番の功績は、西郷隆盛を見出したことだと思います。その斉彬が、兵を退いて上洛して、幕府にモノ申そう!としていた矢先に亡くなります。ところが、その後を実質継いだ弟の島津久光はあまりそういったことに積極的ではありません。そうなってしまうと、「出兵しよう!」「世の中を薩摩が変えよう!」とその気になって、燃え上がった若者たちの気持ちはくすぶり続けます。ですが、久光はやった方がいいとは思うけれど、まだそんなことできない、とも思うわけです。偉大すぎる兄の後を継いだ弟の悲しい宿命です。

とうとう、斉彬の遺志を達成しようと、自分たちだけでも、行動しようという若者たちが出てきます。それをやめるように説得するために久光が派遣した島津藩の志士たちと、刀を抜く事態になってしまったのです。

 

海音寺潮五郎著「寺田屋騒動」(文春文庫2007年)を見ると、その乱闘は、読むのがつらくなるような凄惨な描写です。有名なのは、有馬新七が「おいごと刺せ!」と言って、自分を貫通させた刀で敵(といっても相手も薩摩藩士なのですけど)を絶命させるシーンです。

 

しかも相対している薩摩藩の志士のほとんどが20代で、友達同士でした。「誠忠組」と呼ばれるグループの人達です。当初は説得するつもりでしたから、親しい人たちを派遣した方がいいと考えられたのです。ところがそれが上手くいかず…。悲しい結末になりました。

 

この若者たちのリーダー的存在は西郷隆盛です。この大事な時に、彼は何をしていたかというと、隆盛は久光の命に背いたために、藩に捕まっていました。大事な時にいないのです…。この後、2回目の島流しにされてしまいます。

 

 

ペリーの来航から大政奉還までわずか14年。短い間に、本当にいろいろな事件があって、明治という新しい時代が築かれていきました。

そのひとつひとつに意味があって、その後の時代を作るものだと私は思うのですが、龍馬の寺田屋事件には、薩長がこれからのカギを握ることを世に知らしめた、という意味があるかもしれません。では、薩摩藩士の寺田屋事件には、どんな意味があるのでしょう? 私は、薩摩藩士たちに(特に西郷隆盛や大久保利通に)、久光への(=藩という体制の)失望をはっきりと感じさせたのではないかと思います。こうして、時代の主役はもはや殿様ではなくなって、個人になっていくのです。

 

現代の人々を魅了し続けるヒーロー・龍馬

 

さて、時代を変化させる大きな舞台となった寺田屋ですが、その場所には現在も旅館の「寺田屋」があり、龍馬やお龍、そして龍馬を支援した女将・お登勢の資料が多く掲示されています。また、隣接する庭には、寺田屋騒動の記念碑や龍馬の銅像が立ち、幕末ファン必見のスポットです。しかも、寺田屋の建物は、見学受付は午後3時40分までで、なんとその後は旅館として営業しています。泊まれる現役の〝旅籠〟なんです! 二つの寺田屋事件が起こった場所で、資料に囲まれて宿泊してみては、いかがですか?

 

現在の寺田屋

 

※ここで書いた歴史上の出来事については、諸説あります。この記事は文中で紹介した書籍などを参考に作成したものです。

Information
店舗・施設名 寺田屋
住所 京都市伏見区南浜町263
電話番号 075-622-0243
営業時間 見学は午前10時~午後4時(受け付けは3時40分まで) 
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