おでかけ

2026.04.27

こんにちは。

E-TOKO深草地域ライターの平塚です。

公私ともにアートに関わってきました。

今回「深草アート」としてご紹介するのは、駈馬(かけうま)神事です。

 

1200年の歴史がある藤森神社の駈馬神事

駈馬神事は、毎年5月5日に藤森神社で開催される藤森祭の行事です。

 

1200年以上の歴史を持つ伝統行事で、京都市の登録無形民俗文化財にも指定されています。

乗子(のりこ)が馬に乗り、走りながら次々と技を繰り出し、参道を駈け抜ける姿は圧巻で、馬上では「藤下がり」「一字書き」「手綱潜り」「横乗り」「逆立ち」など、多彩な技が披露されます。

早馬とは異なり、曲芸的な要素を持つ馬術の影響を受けていると言われています。

 

駈馬神事の詳細は、藤森神社の公式サイトでも紹介されています。

https://fujinomorijinjya.or.jp/fujinomori/event01/

 

駈馬神事そのものが歴史あるアートであることは言うまでもありません。

ですが今回「深草アート」として注目したいのは、神事そのものではなく、神馬が纏う馬具(ばぐ)です。

 

人と馬を繋ぐ、これが馬具です!

改めて神馬を見てみると、さまざまな種類の馬具が装着されていることに気づきます。

 

馬具(ばぐ)とは、人が馬を操るために装着する道具の名称です。

馬を飾る道具は馬装具(ばそうぐ)といいます。

 

代表的なものをいくつか見てみましょう。

 

手綱(たづな):人と馬が直接コンタクトを取るための馬具

鞍(くら):人が安定して座れるよう、馬の背に置く馬具

鎧(あぶみ):鞍の両側に吊り下げ、足をかけるための馬具

泥障(あおり):汗や蹴り上げる泥を防ぐための馬具

飾り(かざり):行事に応じて馬を華やかに見せる馬装具

 

現代の乗馬でも使われている馬具もありますが、神馬が纏っている馬具の多くは代々受け継がれてきたもので、どれも非常に貴重です。

 

馬具に施された、美のディテール

改めて馬具を見せていただき、詳しくお話を伺えないかと取材をお願いしました。

ちょうど虫干しのタイミングだということで、実際にお邪魔することに。

 

鞍や鎧は、箱に丁寧に収められていました。

近くで見ると、馬具には凹みや欠け、そして無数の傷が刻まれていました。

神事が長年続いてきた重みと、その過酷さを物語る痕跡に、思わず息をのみます。

 

そして馬具には、アートと呼ぶにふさわしい細やかな細工が施されていました。

鞍(くら)は木製。何十年もかけて乾燥させた粘り気のある木材で作られています。

正面に描かれているのは、藤森神社の「上がり藤に一文字」の神紋。

金色に輝くその神紋からは、神事ならではの崇高さが感じられます。

鎧(あぶみ)の内側には、螺鈿のような細工が施されています。

キラキラと光る細かな欠片が敷き詰められ、職人の繊細な技術と素材へのこだわりが伝わってきます。

泥障(あおり)には、躍動感のある馬の絵。単に描かれているだけでなく、エンボス(型押し)によって立体的な下地が作られ、その上に表現されています。

飾り(かざり)は、ビジュアルの美しさだけでなく、強度も兼ね備えるよう緻密に編み込まれています。

麻を束ねて帯状にし丁寧に編み重ねることで、見た目の華やかさと実用性を併せ持つ構造になっています。

 

馬具は工芸色が強いものだと思っていました。

しかし実際に目にすると、表現としては美術的であり、技術としては工芸的、さらに利便性という意味ではデザイン的な価値も併せ持っていることに気づかされます。

その重なり合いが、とても興味深く感じられました。

 

私が思う2つの疑問

(1)なぜ、これほど多様なデザインがあるのか?

馬具を見ていると、一つひとつデザインが異なることに気づきます。

泥障を比べてみましょう。

大まかな形や留め具の位置は同じですが、デザインは全く異なり、それぞれに強い個性を感じます。

鞍や鐙にも、さまざまな絵柄や細工が施されています。

 

イベントとしての統一感を考えると、ひとつのデザインで揃えた方が良いのではないか…そんな疑問が浮かびました。

 

そこで、藤森神社駈馬保存会の方や世話役を務める方々にお話を伺いました。

 

馬を持つこと自体がステイタスだった時代、家々はそれぞれの想いを馬具に込めていたといいます。ある家は絵師に依頼して象徴的な家紋を描かせ、別の家は彫刻家に依頼して季節を表現したレリーフを施し、さらに別の家は工芸家に依頼して螺鈿細工を取り入れる。それぞれの家が、自らの個性や特徴をどう表現するかを競い合っていたのだそうです。

 

神事では、そうした家々の馬具が持ち寄られることで、長く受け継がれてきたのです。

 

馬具は、人の操作性と馬の快適性の両方が重要だといいます。

本来であれば、利便性を重視するだけでも十分なはず。

それでもなお、そこに家ごとの個性や想いが重ねられている、その点にこそアートの本質があるのではないかと感じました。

 

(2)この不思議な馬具の正体は?

ひときわ目を引く、不思議な馬具がありました。

駈馬神事で実際に馬具を纏った馬の姿を見たときには、気づかなかったものです。

 

それが、こちら。

 

素材は金属。幾何学的で、左右対称のシルエットをしています。

まるで知恵の輪のような、不思議な形状。

アートの視点で見ると、思わず目を奪われるフォルムです。

 

これはどこに取り付け、どんな役目をするのでしょうか?

 

これは「馬銜(はみ)」、または「轡(くつわ)」と呼ばれる馬具です。

 

馬の口にくわえさせる金属製の馬具で、手綱とつながっています。

乗子が手綱を引くと、その力が馬銜に伝わる仕組み。

馬はその変化を指示として受け取り、進路変更やスピード調整、ブレーキなどを行います。

 

こちらは、かなり古い形式のもので、現在ではこの形の馬銜は珍しいのだそう。

とても貴重な馬具だとお聞きしました。

 

ちなみに、この馬具が無いとコントロールを失うことから「馬銜を外す(はめをはずす)」という言葉が生まれたのだそうです。

こうして見てみると、馬具は単なる道具ではありません。

表現性、技術、そして機能性、それらが重なり合い、人と馬をつないできた歴史そのものが、ひとつのアートとして息づいています。

 

アートに共通して言えるのは、それを“つなぎ続けること”の難しさです。

馬具を作る職人の技、それを使う乗子の想い、修復に携わる人の手、そして大切に守り伝えていく人々の存在。

そうした積み重ねがあってこそ、この神事は今日まで受け継がれてきたのだと感じました。

 

今年も5月5日、藤森祭で駈馬神事が開催されます。

迫力あるパフォーマンスはもちろん、神馬が纏う馬具にもぜひ目を向けてみてください。

そこには、1200年の時間が積み重ねてきた“アート”が確かに存在しています。

Information
店舗・施設名 藤森神社(駈馬神事)
住所 京都市伏見区深草鳥居崎町609
電話番号 075-641-1045
ホームページ https://fujinomorijinjya.or.jp/

Writer平塚浩平

アバター画像

Writer平塚浩平

伏見区の深草で小さなデザイン事務所「クチブエ」を営むアートディレクター。 イラストとデザインをメインに活動しています。 親しみやすいイラストで子供向けの動画も配信中。現代美術家として国内外での展覧会経験を活かし、地元のアートシーンをご紹介します!

  • 公式LINE
  • 公式Facebook
  • 公式X

RANKING
SCROLL TOP
pagetop