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【書評・本と京都】「物語を売る小さな本屋の物語」

2020/10/02

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=江⾓悠⼦

 

京都で人気の絵本専門店・店主の成長物語

 

 

 

 

『物語を売る小さな本屋の物語』(鈴木潤著/晶文社)

『物語を売る小さな本屋の物語』(鈴木潤著/晶文社)

 

2人の子育てをしている私は絵本を読んでもらう側から、読んであげる側になった。私が好きだった絵本は現代の子たちにも変わらず人気で、『カラスのパン屋さん』『はじめてのおつかい』『いやだいやだ』など、大人になって再び出会えたことが、とてもうれしかった。絵本とは、読んであげながらも、読んでもらっていた頃の自分に戻っていくようで、なんとも不思議な感覚になる。

 

『物語を売る小さな本屋の物語』(鈴木潤著/晶文社)は、絵本に魅せられた著者の波乱万丈なエピソードが詰まった自叙伝的エッセイだ。著者は三重県四日市に本店がある、子どもの本専門店「メリーゴーランド」の京都店を任される店長・鈴木潤さん。わずか6.5坪というこぢんまりとした空間に、厳選された絵本や書籍がぎゅっと詰まっており、子どものみならず大人も魅了される絵本の店。取材が縁で、私は何度か潤さんとお話したことがある。潤さんは質問のたびに一つひとつ丁寧に言葉を選び答えてくれた。小柄な体に、ブレない芯のある女性という印象を持った。

 

本書で語られるのは、四日市で生まれ育った著者の子ども時代の話に始まり、多感な高校時代、アメリカへの留学、社会人として初めて働いた広告代理店でのことや、「メリーゴーランド」で働くことになったいきさつ、京都店を任されてから現在までのこと。いつも深く何かを思考している雰囲気の潤さんが、まさかこんな「当たって砕けろ」的な、波乱万丈な人生を歩んできたとは…!本書を読んでビックリすることがたくさんあった。

 

大学時代、ピースボートのボランティアをしに東京へ行きたいと親に相談したものの、父親に反対されたため、内緒で夜行列車に乗って東京へ行ったり。初めて勤めた会社での営業職が肌に合わず、わずか1年で辞めると伝えたときは「会社にどれだけの損害を与えたと思っとるんや」とどやされたり。メリーゴーランド京都店のオープンについては、四日市店のスタッフからは応援されていなかった(!)などなど。

 

でも、そのエピソードのどれもが、潤さんが自分の気持ちにまっすぐに向き合ってきた結果なんだなぁと思う。一見無謀とも思える行動も、「こうありたい」と願う強い想いがあってこそなのだ。

 

「目の前に波があったらとりあえず乗りたいタイプで、その波が大したことなくても、怪我をしたとしても『乗った』ことが大事。『逃がした』ことで後悔したくない」

 

驚いた後に、納得もした。目の前の波にためらわず飛び込み続けて、これほどの経験を経ているからこそ、今の潤さんがあるのだと。

 

潤さんは子どもの心を持ったまま大きくなった人なのだ、たぶん。波にのまれることが怖くて乗れない大人からしてみれば、純粋に波に乗りたい気持ちを大事にできる潤さんがすごく羨ましい。そうして波に乗ってみて、失敗したりうまくいったり。どっちに転んでも潤さんは淡々と自分を見つめ、会話の中に四日市弁が交じる親しみある筆致で物語を書き進める。

 

物語の後半から舞台は京都へ移る。縁もゆかりもない京都で始めた本屋さん。夫となる迅くんと出会い、子どもを産み、子育てをしながら、本屋を軌道に乗せていく。ここでも「当たって砕けろ」が精神が生きている。が、彼女は砕けるだけではなく、次第に大きな波を起こしていく。その様子は、まるで映画の快進撃を見ているようで楽しい。潤さんは人を巻き込むのがうまい。誰もが見過ごしてしまいそうな小さな偶然を、持ち前の行動力で奇跡に変える。いろんな人の助けがあってメリーゴーランドは廻りはじめる。人と絵本の出会いを繋ぐ場でありながら、人の心と心を繋ぐ場となっている。本書を読み終わった後は、子どもの頃に読んだ本に再び出合いに、そして新しい絵本と出合いに、お店に足を運びたくなる。

 

 

本を通して見る「京の町」

 

昭和初期に建てられた寿ビルディング。右から左へ並ぶ文字も風情がある。

昭和初期に建てられた寿ビルディング。右から左へ並ぶ文字も風情がある。

 

 

「メリーゴーランド京都」があるのは、京都の繁華街・四条河原町から南へ徒歩5分ほど下がったところにある、レトロなビルの5階。登録有形文化財としても登録されている建物内には、皆川明さんが立ちあげたブランド「ミナ ペルホネン」のショップや「ほぼ日刊イトイ新聞」が運営するほぼ日の店舗「TOBICHI京都」も。ビルの正面玄関や階段にはアール・デコ風意匠が見られるほか、タイル張りの床にアンティークな照明など、建物そのものの魅力も顕在。

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江角悠子

ライター:江角悠子

京都在住のライター2人で結成したユニット「コトノトショ」メンバー。編集も手がける。活字中毒で何かしら文字を読んでいないと落ち着かない。インスタグラム(@ezumiyuko_books)に、日々の読書記録をアップ中。

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