おでかけ

2025.07.02
(c)Julia/Omuro

ようこそ、おおきに。映画ライター椿屋です。

みなさん、京都お好きですか? ハイデガー、お好きですか?

 

ハイ?なに、それ、美味しいの??と思ったとて不思議はありません。

ハイデガーは、20世紀の最も影響力がある思想家のひとりとして知られる哲学者。実存主義哲学の基点となる「存在論」を示しました。彼が言う「本来的存在」とは、個々の人間が自己の存在を理解し、主体的に生きる在り方を指します。世間一般の価値観に流されたり、期待に左右されたりすることなく、己の死を覚悟し、自らの存在の可能性に向き合う重要性について問う思想です。

 

この思想から、利用者それぞれのライフストーリーの聞き取りを通して彼らが本来的存在になることを望む所長・武藤雅治(田山涼成)の運営する介護施設「ハレルヤ」が、映画『また逢いましょう』の舞台です。

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利用者たちの心を開き、自己と向き合うツールとなる「ハレルヤ通信」は、施設内コミュニケーションを円滑にし、人々を孤立させずに結びつけ、居心地の良い場所を提供することに繋がっていきます。そんな所長の姿勢や施設の状況を間近に見て、父(伊藤洋三郎)を預けることになる主人公・夏川優希(大西礼芳)は「ハレルヤ」と関りを深めていくことになるのです。

 

この施設のモデルとなったのが、京都市右京区に実在する介護デイケア「ナイスデイ」。当該施設を併設する診療所を営む伊藤芳宏医師が、本作で監督デビューを果たした西田宣善さんへ送った一通の手紙から、映画製作が動き出しました。

実は西田監督は、右京区出身。現在でも区内と東京に事務所を置き、二拠点生活を送られています。介護施設を舞台にさまざまな人間模様を描く本作は、監督の地元への想いから外回りや実景のすべてが右京区で撮影されているご当地映画でもあるのです。

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多くのロケ地のなかでも最も魅力的だったのが、優希がお世話になっているケアマネジャー・野村隼人(カトウシンスケ)と歩く「鹿王院」でのシーン。

ここで野村が「ハレルヤ」について説明するためハイデガーの言葉を引用し、その対話からふたりのキャラクターが垣間見られる重要な場面となっています。

 

ロケ地となった鹿王院の山門から中門にかけての風情ある参道は、茂る青苔、竹林、椿や紅葉などの樹々が続き、なんとも安らぎに満ちた空間。緑のトンネルがフォトジェニックな穴場的スポットです。

「鹿王院は私が愛する右京区の寺院ですが、まだまだ知る人ぞ知る場所。もっと拝観者が増えることを望んでロケ地に選びました」と、西田監督。

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ふたりが初めてのデートで訪れたカフェは、薪窯で焼き上げる生地が美味しい本格ピッツァがご自慢の「Pizzeria OTTO」(8/7まで夏季休暇中)。営業日が金土のみの狭き門ですが、嵐山散策の際にはぜひ立ち寄ってみてくださいませ。

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さらに、ふたりが好きな漫画家の話で距離を縮めていく本屋のシーンでは、嵐山にある古書店「London Books」がロケ地に。文芸や思想はもちろん、サブカル、漫画、絵本、京都本など選りすぐりが並ぶ書棚では、きっと思わぬ出合いがあるはず! 白壁&マリンブルーのファサードが目印です。

 

隅々まで満ち満ちている、西田監督の右京区愛!

先述のとおり、本作のメガホンをとった西田監督は右京区生まれ、右京区育ち。17歳で8ミリカメラを手に入れる前から映画監督志望で、20本以上の自主製作を撮ってきました。が、肩書としてはプロデューサーであり、配給・宣伝、映画専門書の出版など多岐にわたる活動を経て、還暦を越えての監督デビューとなったのです。

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そんな西田監督がプロデュースを手掛けた井浦新さん主演の『嵐電』(2019年)で生まれた京福電気鉄道や京都市とのご縁から、本作でも嵐電が随所に登場しています。

ちなみに、本作で主人公を演じた大西礼芳さんは、『嵐電』にも出演されていました。彼女が東京から帰省する際の服装(ボトムス)が嵐電カラーなのはちょっとした遊び心だと思われます。

 

そんな大西さん、東京でアルバイトをしながら漫画を描いている優希を等身大に体現するだけでなく、なんと!編中に出てくる漫画を自身で手掛け、ピアノ演奏もこなしているというから、その多才っぷりに驚くばかり。本作の象徴ともいえるオリジナルソングを歌うシーンも必見です。

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さらなるロケ地情報としましては――

物語のクライマックスで優希と野村が哀しみをシェアする重要なシーンが、雙ヶ岡に設けられている疎林と芝生の「こもれびのひろば」で撮影されました。加えて、優希たちがド派手なピンクの特攻服で突撃するラストシーンは、雙ヶ岡の麓、監督のご自宅の前の風景が映し取られています。

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人は誰でも、いつか死にます。だからこそ、その運命を肯定的かつ前向きに受け入れることで、いまの生を輝かしいものにできる――。一人ひとりが晴れやかな日々を生きていくために必要なものは何か? という古今東西の哲学者たちが考えてきたであろう答えのヒントを、映画『また逢いましょう』から受け取ってくださいませ。

 

◎作品情報

『また逢いましょう』https://mataaimasho.com

7月18日(金)全国順次公開

出演:大西礼芳、中島ひろ子、カトウシンスケ ほか

監督:西田宣善

脚本:梶原阿貴

配給:渋谷プロダクション

【公式SNS】

X(旧Twitter):@mataai1889

Instagram:@mataaimashou1889

Information
店舗・施設名 仏牙寺 鹿王院
住所 京都市右京区嵯峨北堀町24
電話番号 075-861-1645
営業時間 9:00~17:00(無休)
交通 JR 嵯峨嵐山駅より徒歩5分
京福嵐山線 鹿王院駅より徒歩3分
市バス・京都バス 下嵯峨下車徒歩3分
料金 拝観料 大人600円、小中学生300円
ホームページ https://rokuouin.com

Writer椿屋 山田涼子

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Writer椿屋 山田涼子

京都拠点の映画ライター、グルメライター。合言葉は「映画はひとりで、劇場で」。試写とは別に、年間200本以上の作品を映画館で観るシネマ好き。加えて、原作となる漫画や小説、テレビドラマや深夜アニメまでをも網羅する。最近Netflixにまで手を出してしまい、1日24時間では到底足りないと思っている。
X:@tsubakiyagekijo

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