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【書評・本と京都】「京都の凸凹を歩く」

2019/11/16

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=油井康子

 

土地の記憶を内包する「高低差」に注目した京都の意外な歩き方

 


『京都の凸凹を歩く』(梅林秀行/青幻舎)『京都の凸凹を歩く』(梅林秀行/青幻舎)


 

 

ある時、初めて会う人と京都市内のおでん屋さんで食事をしていて、どこに住んでいるかという話になった。相手が代々上京区に住んでいるというので「へぇ、じゃあ生粋の京都人なんですね」とつい口を滑らせたら、返ってきた言葉は「いやいや、僕が住んでるのは御土居(おどい)の外なんで、京都人と言うのはおこがましいです」。嘘やろ、京都の人は今もそんなこと言うの。と、つい素っ頓狂な声を出してしまったのである。御土居とは、豊臣秀吉が天下統一を果たした際に築いた土塁(外からの侵入を防ぐために土を盛ったもの。御土居は鴨川の氾濫に備えた堤防の役割も果たしていた)のこと。かつての御土居の中でなければそこは京都にあらずということらしい。何百年も前の出来事が、今の京都の人々の日常に深く食い込んでいることを痛感したのだった。

 

『京都の凸凹を歩く』(梅林秀行/青幻舎)を読んでいると、いつもあの時の食事風景が蘇る。本書は京都各地の高低差、すなわち”凸凹”に焦点を当て、地形に現れる歴史を紐解く異色のガイドブックだ。著者の梅林秀行さんを人気テレビ番組『ブラタモリ』で目にした人も多いだろう。梅林さんは京都をよく知る住民によるミニガイドツアー「まいまい京都」で、今も京都の凸凹をテーマにしたツアーを定期的に開催している。「伝統的な」「変わらない風景」と観光客が褒め称える京都の風景は、実は多くの人々の手が加えられて出来上がった(あるいは姿を消した)ものであることが、本書を読むとよくわかる。

 

本書では、9つのエリアの特徴的な地形とその地形にまつわる歴史の変遷が紹介されている。例えば、京都らしい風景の代表格と言える祇園。「大和大路との交差点を渡ったら、くるっと背を向けて、来た道を眺めてみましょう。交差点の中央部分が隆起して、そこから西側へ鴨川に向かって下がっている様子がわかるでしょうか。その高低差こそが、昔の鴨川の範囲を示す痕跡なのです」鴨川の河原の範囲は今よりもずっと広く、現在の大和大路通は江戸時代までは堤防に相当する場所なのだと言う。お茶屋が密集する花見小路は近代以降に移転してきたものだそうだ。現在の街のランドマークや凸凹地形の写真はもちろん、3Dの地形図や古地図、街を描く絵画もふんだんに掲載され、文字通り「立体的な」京都のもう一つの姿が浮かび上がってくる。

 

有名な寺社や歴史上重要な場所を訪れて「こんなことがあった」と知る機会があっても「昔はこんな姿だった」と実感する機会はなかなかないのではないだろうか。少し視線を足元に落とし、高低差を意識することで、驚くほどドラマチックな土地の記憶が目の前に広がる。そんな新しい発見をさせてくれた一冊だった。これからの紅葉シーズン、鮮やかな木々だけではなく、足元の凸凹にもぜひ注目したい。

 

本を通して見る「京の町」

 

 

八坂神社の東側、絶好の花見スポットとしても知られる円山公園。東山をバックにした広大な回遊式日本庭園は昔ながらの風景かと思いきや、こちらは1886(明治19)年に整備されたのだそう。本書によれば「当時真葛原”と呼ばれた一面の田園風景」だったと言うから、その変化には驚くばかりだ。現在は京都市民はもちろん、散策を楽しむ外国人観光客も多く、特に休日の昼間は賑わう。ゆったり散策したいなら、平日の早朝がおすすめだ。

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ライター紹介

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ライター:油井やすこ

京都郊外在住ライター。幼少期の一番のお気に入りスポットは図書館。現在の趣味は積ん読。怖がりなのに怪談やミステリも読めるようになり、ようやく大人になったと感じている。

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