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【書評・本と京都】「天国はまだ遠く」

2019/09/09

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=江角悠子

 

「海の京都」で過ごすゆるゆると豊かな人生の夏休み

 

 


『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ/新潮社)


 

何もかもを捨て去って、どこか遠くへ行ってしまいたいなぁと思うことが、私にもある。『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ/新潮社)の主人公のように。23歳の千鶴は、仕事も人間関係もうまくいかず、自殺をしようと心に決める。自殺をするなら、陽気な場所ではない、濃い海と濃い空を持つ日本海地方だ。そう決心して、北へ行く特急に飛び乗るのだが、たどりついた民宿での自殺はあえなく失敗。行くあてもなく、さりとて帰る気もなく、民宿の田村さんと過ごす、ゆるゆるとした日々が始まる。

本書の著者・瀬尾まいこさんは、中学教師をしながら作家活動をしていた。丹後地方での勤務が決まり、そこで生活していたことが本書の描写にも色濃く反映されている。特に印象的だったのは、お話に登場する食材。丹後米は味が濃厚なため、新米をおかずにして古い米を食べるほどだというし、桜でも楓でもなんでもいいから、その辺にある葉や枝を入れて作る薫製ハムは、「葉の香り、木の香り、風の薫り、陽の懐かしい香り。いろんな香りが薄い一枚にしみこんでいる」なんて、いかにもおいしそうだ。絞めたばかりの鶏肉に軽く塩だけ振って焼き、柚子を絞ってかけて食べるシーンも、想像しただけでお腹が減ってくる。自殺をしにきたはずの千鶴が少しずつ息を吹き返していけたのは、そこに暮らす人が手をかけて用意してくれたおいしい食材に出合えたからだと思う。

もうひとつ千鶴に生きる勇気を与えたのが、集落の環境だ。「晩秋のせいで赤くなった木々や茶色く広がる田畑」や「気持ち悪いほど、星がうじゃうじゃしてる夜空」、海をやわらかい色に染める朝陽。そんな風景の中に溶け込むように集落での暮らしに慣れていく千鶴。

決まった時間に起きて、きちんとご飯を食べ、自然の中を歩く。自然のリズムが身体にも移って、夜は勝手に眠くなり、朝は勝手に目が覚めた。

そうやって千鶴が少しずつ自分を取り戻していくほどに、自然になじんだ暮らしが羨ましくなる。いろんな道具が発明されて、世の中は便利になったはずなのに、現代人はいつまでたっても忙しい。そんな中にいると「生きる」ことについてなんだかいろいろ難しく考えてしまうけど、人は食べて自然を感じて、そうやってシンプルに暮らしていくことで、本来の自分に戻れるのかもしれない。

千鶴の人生の夏休みは21日間で終わった。子どもだけではなく、大人にだってこうした夏休みがときどきは必要なのかもしれない。そして、読み終わったあとは、猛烈に丹後を旅をしたくなった。

 

 

本を通して見る「京の町」

 

丹後地方を象徴する景色としてまず思い浮かぶのが、「天橋立」。陸奥の「松島」、安芸の「宮島」とともに、古くから景勝地として親しまれている日本三景のひとつ。松の木が続く道を対岸まで歩いていくことができる格好の散歩道。展望台に行ったら「股のぞき」をして、天へと昇る龍を見てみてほしい。本書は2008年に宮津を舞台に映画化もされている。本を読んで映画を見たら、ロケ地めぐりをするのも楽しそう。海のない京都市内に長く住んでいると、海への憧れが俄然強くなる。千鶴の見た朝陽を私も丹後まで行って見てみたいなぁと思う。

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江角悠子

ライター:江角悠子

京都在住のライター2人で結成したユニット「コトノトショ」メンバー。編集も手がける。活字中毒で何かしら文字を読んでいないと落ち着かない。インスタグラム(@ezumiyuko_books)に、日々の読書記録をアップ中。

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