第3回目は、創業50年近い〝ザ・王道の喫茶店〟へ。
地元の人からも絶大な人気を誇る「COFFEE HOUSE maki」です。
きっと究極のサンドイッチの核となる、味と技、そしてお店の空気感が学べるのではと、緊張気味にドアを開くと。。。
河原町通に面する入り口から店内へ入ると、目に飛び込んでくるのは、ゆったりとした革張りのソファー、重厚感ある木調のインテリア、新聞を広げコーヒーをすする(おそらく)常連さん、おしゃべりしながらケーキやトーストをニコニコほおばるマダムたち…
ああ、ここには懐かしの昭和の空気が流れています。
「COFFEE HOUSE maki」は50年ほど前に、先代店主夫妻が伏見のほうで小さな珈琲店を始められたのが始まりだとか。「その後、この出町柳の地に移って40年になります」とは、先代の娘さんである牧野久美さん。「コーヒーマイスター」の肩書きを持ち、同店・代表取締役です
(牧野さんの隣に写っているのが、焙煎機。お店の2階に焙煎ルームがあります)。
自家焙煎のコーヒー専門店だけあって、常時20種以上のコーヒーが用意されていますが、サンドイッチも約10種、トースト5種など、パンメニューもなかなかどうしての充実ぶりです。
中でも一番人気は「和風タマゴトーストセット(ブレンドコーヒーが付いて800円)」。牧野さんいわく「毎回、こちらを注文される方もおられるほどです」とのこと。
これ、斬新~!
卵2個を使った厚焼き玉子と共にパンに挟まれているのは、海苔と薄切りのキュウリ、カイワレ、ゆかり、かつお節。今でこそ、こうした和洋折衷スタイルって少なくないかもしれませんが、このサンドイッチが誕生したのはなんと30年ほど前。当時はこの組み合わせ、かなりびっくりされたんじゃないでしょうか(先代が亡くなっているので誕生秘話は不明。残念!)。自家製和風ドレッシングのサッパリとした酸味がトーストと具材をうまく結び付けているのですが、現在でもドレッシングを使うのは珍しい気がします。
次に、創業当時からあるというミックスサンドをいただきま~す。(写真は「ミックスサンドセット(ブレンドコーヒーが付いて850円)」)
これは定番ど真ん中。美味しいに決まっている…んですけれど、むむむ、予想のさらに上をいく美味しさ!! 聞けばマヨネーズは自家製、からしバターもバターにマスタード、粉からしを混ぜて作られているそうです。そんな仕込みの丁寧さが味に表れています。
「パストラミビーフサンドセット(ブレンドコーヒーが付いて850円)」は、15年ほど前に2代目店主・牧野哲也さん(久美さんの弟さん)が考案した、同店ではニューフェイス。
さて、ここまできて、何か気づきませんか?
―― そう、全てパンが違うんです。
「和風タマゴトースト」にはカリッと焼きあがる油脂の少なめのパン、「ミックスサンド」には生クリームなどを多めに配合したしっとりとしたもの、スパイシーで塩気の強い具材を挟む「パストラミビーフサンド」は甘みのある黒糖ブレッド、というようにそれぞれのサンドイッチの魅力をひきだすよう、相性を計算したパンが使われているのでした。これには、驚くとともに感動。
同店のサンドイッチは、お客さんの座る席を見渡せるカウンターの中のキッチンで作られます。
「パストラミビーフサンド」は、具材を温め、背後のトースターでパンを焼いたら…
手早くからしバターを塗り…
具を乗せて…
カット!
あらかじめ、パンの耳がカットされているのは、焼いてから耳を落とすとつぶれてしまい、おまけにトーストした端っこのカリッとした食感が楽しめなくなるから。こうした細部までのこだわりが美味しさにつながり、長年多くの人を惹きつけてやまないのですね…
清潔感のあるキッチンはさすが。流れるようなスタッフさんの手さばきにもうっとりです。
やはり老舗かつ人気店は、すべてが美しい。
そして、お客様への心配りも最高に美しい。
修行探訪3軒目から得た学び。
「パンと具の相性を考え、最大のパフォーマンスを発揮させる」
ちなみに同店では、くりぬいたトーストにサラダやゆで卵を盛り込んだ「モーニング」も人気です。それも含め、「パンを使ったメニューは平日で80食、休日は130食ほど出ます」とサラリと笑顔で話す牧野さん。
京都はパンの消費量全国1位だそうですが、こうした老舗の喫茶店が京のパン食文化の一端を支えてきたのではなかろうか、とも思ったのでした。