
西陣の老舗和菓子店『鶴屋吉信』で、伝統の中に新しさをまとった和菓子があります。名前は「つばらつばら」。その音の響きも味わいも、どこかしみじみと心に残る──。
しっとり、もっちり、和菓子の既成概念を超えたその食感には、老舗の知恵と技術が詰まっています。今回は、来年で誕生30周年を迎える「つばらつばら」の魅力を、本店の空間とともにご紹介します。
創業は1803年。200年以上伝統を守りながら、直営カフェ『tubara cafe(ツバラカフェ)』や新感覚の和菓子ブランド『IRODORI(イロドリ)』をオープンさせるなど、新しいことにチャレンジし続けています。
織物の街として有名な西陣の大路、堀川通と今出川通の交差点の北西角にある数寄屋建築の建物が、『鶴屋吉信』の本店です。景観に配慮した建築として「京都市都市景観賞」を受賞したのも頷ける、品格を備えた佇まいです。
表通りに面したウィンドーには、工芸菓子などで四季折々の美しさを表現し、お店に来られる方の目を楽しませてくれています。取材当日は、お干菓子で作ったあじさいが飾られていて、本物のお花と見間違いそうになるほどの作品でした。
1階の店舗は、まるでホテルのロビーのように広々としていて、車いすやベビーカーでもゆったりと商品を選ぶことができます。日本栂(とが)で作られた腰掛け台もあり、商品を選ぶ合間に少し腰を下ろして、店内の空気を静かに味わえる──そんな心遣いもうれしいポイントです。
樹齢数百年の栗の一枚板を使用したショーケースには、代表銘菓の「柚餅(ゆうもち)」をはじめ、琥珀糖「青苔」など本店限定の商品が並んでいます。
本店限定の商品や贈答用の商品は、お店の奥・暖簾の先でも確認することができます。商品の後ろの杉戸絵には、思わず目を見張る「丹頂鶴」が描かれているので必見です。文化勲章も受賞された日本画家・上村淳之(うえむらあつし)氏が描いたものだそう。
三代目によって1868年に創案された「柚餅」や、100年以上愛されているロングセラー銘菓「京観世(きょうかんぜ)」も有名ですが、今回は2026年で30周年を迎える「つばらつばら」(1個238円)をご紹介します。
写真左から「柚餅」、「京観世」
「つばらつばら」は、1996年10月に世田谷支店(現在は閉店済み)がリニューアルオープンした時に、記念菓として誕生しました。当初は関東地区限定の予定でしたが、お客様に大好評で、全店舗で販売することになったそうです。
かわいい名前は、万葉集にも登場した大伴旅人の和歌「浅茅原(あさぢはら)つばらつばらにもの思へば故(ふ)りにし郷(さと)し思ほゆるかも」が由来となっていて、「しみじみ、心ゆくまで」という意味が込められています。
しっとり、もっちりとした独特の弾力ある生地の秘密は、小麦粉ともち粉を合わせているからです。もち粉は通常、焼く時に小麦粉よりも粉っぽくなってしまいます。そのため、生地を焼く時に“企業秘密のひと工夫”を行い、「つばらつばら」独特のしっとり、もっちりとした焼き上がりになっています。
山形に折りたたまれた生地の中には、北海道・十勝産の小豆が入っています。粒が大きめで、小豆の粒や皮が残っている粒あんは、生地との食感の違いを楽しめます。
秋は白あんと栗ペーストを合わせ、なめらかなあんと和栗を挟んだ「つばらつばら 栗」 。冬は、シャキシャキとした食感のりんごの果肉入りのなめらかなりんごあん「つばらつばら りんご」など、季節限定の「つばらつばら」も販売されていて、次の季節が待ち遠しくなりますね。
写真提供:鶴屋吉信 「つばらつばら 栗」
品質安定のため、定期的に社長の稲田慎一郎様をはじめ、複数の職人さんや従業員の方で試食を行い、味のチェックを重ねているそうです。こうした丁寧な取り組みが、『鶴屋吉信』が長く愛される理由なのでしょう。
本店入り口の右手の暖簾をくぐった先は、2階のお休み処に繋がっています。買い物のあと、本店から直接お休み処に行くこともできますが、茶寮がメインなら、こちらの入り口からどうぞ。
2階のエレベーターホールは、フランスの古城で使われていたレンガが敷き詰められていて、一気に雰囲気が変わり、異国に降り立った気分に。
奥にあるお部屋がお休み処ですが、目の前に広がる京町家の坪庭風の茶庭を見たら、ここが2階ということに驚くはず。
すぐ側が大路というのを忘れてしまうほど静かで、心落ち着く空間です。
こちらの素敵な空間では、季節の生菓子や葛、かき氷などがいただけます。中でも「京(みやこ)セット」(1,540円)は、代表銘菓の「京観世」、「柚餅」、「つばらつばら」が堪能でき、さらに抹茶もついたおすすめのセットです。
しみじみと、心ゆくまで。万葉のことばが名付けられた「つばらつばら」は、忙しない日常の中に、ふっと訪れる静かなよろこびを教えてくれる和菓子です。和菓子の余韻と、老舗ならではのしつらえに包まれて、静かな時間を味わいに訪れてみてはいかがでしょうか。
※全て税込み価格です。
店舗・施設名 | 鶴屋吉信 |
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住所 | 京都市上京区今出川通堀川西入る |
電話番号 | 075-441-0105 |
営業時間 | 店頭/ 9:00~18:00 お休み処 / 10:00~17:30(L.O. 17:00) 実演コーナー/要予約(11:20〜12:30はお昼休み) 定休日:水曜日(臨時営業あり) |
交通 | 地下鉄「今出川」より西へ徒歩約10分、市バス「堀川今出川」より西北角 |
ホームページ | https://www.tsuruyayoshinobu.jp/ |
Writer小澤まみ
Writer小澤まみ
読み手よし、書き手よし、世間よしの「三方よし」のライターになりたいと日々精進中。文房具、コーヒー、お花、神社、サッカー好きの1児の母。
書いて縁を結ぶ「京都書縁」で、日々ブログを書いています。
WEB:https://kyotoshoen.com/