2026.10.20

1875年の創業以来、科学技術と向き合ってきた島津製作所。その姿勢は、優れた製品を生み出すことだけにとどまりません。

同社では2001年から環境教育に取り組み、2007年には子どもたちが科学に触れる「島津ぶんせき体験スクール」をスタート。長年にわたり、科学の面白さを社会へ伝え続けています。

なぜ、分析・計測機器などを手がけるメーカーが「教育」に取り組むのでしょうか。

そこには、自社が培ってきた技術や知識を社会へひらく、島津製作所らしいSDGsの形がありました。

 

(右から:取材にご協力いただいたサステナビリティ経営ユニット米倉さん、サイエンススクールご担当依田さん、サステナビリティ経営ユニット萩原さん)

 

「良い装置をつくる」だけでは終わらない

島津製作所の社是「科学技術で社会に貢献する」と教育活動は、「非常に密接に関係している」と、米倉さんは話します。

 

「良い装置を世の中に出すことはもちろん大切です。でも、それが世の中の役に立って初めて意味がある。そのことを昔から強く意識してきたのだと思います」

 

その姿勢を象徴するのが、X線装置を普及させていく過程で、装置を正しく扱う技術者を育てるため「レントゲン技術講習所」を開設したこと。その流れは現在の京都医療科学大学へとつながっています。

(昭和2年(1927)9月、島津レントゲン技術講習所第一回入学式の様子)

装置をつくって終わりではなく、その技術が正しく使われ、社会の役に立つところまで考える。

環境分野でも、1970年代に公害が社会問題となった頃から環境分析に取り組んできました。

 

「その時代、その時代の社会や産業が抱える課題をどう解決するか。その中から、新しい技術も生まれてきました」

 

と語る米倉さん。

教育や環境への取組は、SDGsという言葉が生まれる以前から続く、同社の姿勢の延長線上にあります。

 

「科学を好きになるきっかけ」を、一度きりで終わらせない

(スクールで使用する、ペーパークラフトの分光器)

2007年に始まった「島津ぶんせき体験スクール」。

立ち上げ当初から大切にしていたのが、「続けられる活動にすること」でした。

サイエンススクール担当の依田さんは、開始当時の担当者から聞いた思いをこう紹介します。

 

「子どもたちが科学を好きになるきっかけをつくりたい。それを一度きりのイベントで終わらせず、継続していけるものにしようという考えが、最初からあったそうです」

 

もう一つの出発点となったのが、「なぜ、その答えが出るのか」を伝えることでした。

高度な分析装置は、中の仕組みを知らなければ「材料を入れて操作すると答えが出てくる箱」に見えてしまいます。

そこで、身近な実験やものづくりから分析の原理を学び、その先にある本物の分析装置へとつなげるプログラムを考案。

一つのコースからスタートし、試行錯誤しながら内容を広げてきました。

 

教科書の「科学」が、社会とつながる瞬間

(取材中に、ペーパークラフトの分光器の使い方を教えてくださる場面も)

「島津ぶんせき体験スクール」が大切にしているのが、学校で習う科学と、社会で使われている科学をつなぐことです。

例えば、光をテーマにしたプログラム。

子どもたちはまず分光器などを使い、白い光がさまざまな色に分かれることを体験します。

光が分かれて虹のように見える現象は、中学校の理科でも習う身近な科学です。

しかし、体験はそこで終わりません。

その先では、光を利用して物質を分析する実際の装置にも触れます。

 

「分光器をつくる体験自体は、島津製作所以外でもできます。島津製作所でやるからには、実際の装置を触って、自分たちで結果を出すところまで体験してほしいと思っています」

 

子どもたちが測るのは、飲料やかき氷のシロップなど身近なもの。

そこから、同様の技術が食品の品質管理や医療など、社会のさまざまな場面で活用されていることを知ります。

教科書で習ったことが、実は自分たちの生活を支える技術につながっている。

その発見が、科学をぐっと身近なものにしていきます。

 

「分からない」を楽しめる人に

(取材で訪れた「島津製作所 創業記念資料館」には、科学の原理を体感できるさまざまな展示も)

依田さんが子どもたちに持ち帰ってほしいのは、知識以上に、自分で考え、試し、また考えるという科学のプロセスそのものです。

 

「自分が考えたことを実際に測って、結果が予想通りだったのか、違ったのか。そこから何が分かって、何がまだ分からないのかを考える。その過程を楽しいと思ってほしいんです」

 

科学に興味を持ち、理系の進路を選ぶ子どもが増えればうれしい。

けれど、科学的に考える力は理系に進む人だけのものではない、と依田さんは話します。

 

「社会にあふれる情報をただ受け取るのではなく、自分で考え、正しい情報を選び、判断する。そんな力にもつながってほしいと考えています。」

その思いが届いたと感じた出来事がありました。

蛍光X線分析装置を使った体験に参加したある小学生が、アンケートに『世の中のすべてが元素の組み合わせで存在することが不思議で、考えるほど疑問が増えるけれど、それが面白い』という趣旨の感想を書いてくれたのです。

 

「『考えれば考えるほど分からなくなるけれど、それが楽しい』という部分が、すごく嬉しかったですね。まさに、それを体験してほしくてやっているので」

 

一度参加した子どもが、別のイベントに友達を誘って再び参加してくれたこともあったそうです。参加人数だけでは測れない「もっと知りたい」という好奇心も、活動が生み出してきた成果の一つです。

 

「会社のためにやらない」。それでも、会社にも返ってくる

今回の取材で印象的だったのが、依田さんのこの言葉でした。

 

「島津ぶんせき体験スクールは、会社にいいことが返ってくることを求めない、というポリシーでやっています」

 

採用や売上につなげるためではなく、日本全体で科学に興味を持つ人の裾野を広げるために取り組む。それでも、活動を続ける中で、結果として社内にもさまざまな価値が生まれています。

例えば、従業員や従業員の家族向けに実施した島津ぶんせき体験スクール。

ある営業担当者からは、それまで販売していながら実際には触れたことのなかった装置を体験したことで、製品を具体的にイメージしながら営業できるようになったという声が寄せられました。

子供向けの回では、自分の親の仕事内容を知った子どもから「すごい!」「こんなことをしていたんや」と声が上がることもあるそうです。

社員にとっては、自分の仕事や会社の技術を家族に知ってもらう機会になります。

また、京都だけでなく東京や富山、徳島などから体験に訪れる学校もあり、参加するまで島津製作所を知らなかった子どもたちが、会社やその技術を知るきっかけにもなっています。

採用や売上を目的にした活動ではない。
それでも続けるうちに、社員の商品理解や仕事への誇り、子どもたちとの新しい接点など、当初は想定していなかった価値が会社にも生まれていました。

そこに、島津製作所の活動の特徴があります。

 

SDGsは、「自分たちの強み」から始めればいい

島津製作所のように、高度な技術を持つ会社だからできることなのでは—。

そう思う人もいるかもしれません。

しかし米倉さんは、どんな会社にも、その会社ならではの強みがあると話します。

 

「本業と関係のない、やりにくいことに無理をして取り組むのは、エネルギーも必要ですし、継続するのも難しい。まずは自分たちの強みが持つ社会的な意味に目を向けて、そこから何ができるのかを考える。それが最初の一歩になるのではないでしょうか」

 

また萩原さんは、数字とは違う価値についてこう話します。

「こうした活動に参加すると、人間として『うれしいな』『やってよかったな』と思えることがあります。それが明日の仕事の活力になる。『これをやったら世のためによさそう』と思うことをやってみることも、仕事のエネルギーになるんじゃないでしょうか」

 

SDGsのために、特別な活動をゼロから生み出す必要はないのかもしれません。

自社がすでに持っている技術や知識、得意なことを、社会のためにどう生かせるか。

島津製作所が積み重ねてきた活動は、そんなSDGsへの入り口を示しています。

 

島津製作所の考える「18番目の目標」は?

最後に、島津製作所の皆さんに、SDGsにもし「18番目の目標」を加えるなら何を掲げるかを伺いました。

選んだ言葉は、

 

「科学の力を広げて、未来を照らそう!」

 

科学に興味を持つ人が増え、その中から未来の社会課題に向き合う人が生まれる。

その課題を解決するのが、島津製作所でなくてもいい。

 

「社会課題に向き合う力はいろいろありますが、科学はその中でも大きな力を持っていると確信しています」

 

と語る3人。

一つの科学体験から生まれた「なぜ?」が、いつか誰かの未来を照らす力になるかもしれません。

島津製作所はこれからも、科学の力を社会へひらいていきます。

 

ショート動画はこちら▼

Information
店舗・施設名 島津製作所 創業記念資料館
住所 〒604-0921 京都市中京区西生洲町478-1(木屋町二条南)
電話番号 075-255-0980
営業時間 開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:水曜日、土曜日、日曜日、祝日、年末年始、その他臨時に定める日
※事前予約制。詳細は公式ウェブサイトをご確認ください。
交通 ・ 市バス「京都市役所前」より徒歩約2分
・ 地下鉄東西線「京都市役所前」2番出口より徒歩約2分
・ 京阪電車「三条」12番出口より徒歩約7分
駐車場 なし
料金 大人:300円 中高生:200円 小学生以下:無料 /障害者手帳をお持ちの方と介添者1名まで無料 ※ただし、2階展示室へのエレベータはございません。 /団体(20名以上)は2割引 ※要予約・スタッフによる展示案内可
ホームページ https://www.shimadzu.co.jp/memorial-museum/index.html

Writerデジスタイル京都スタッフ

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Writerデジスタイル京都スタッフ

タカラサプライコミュニケーションズではたらく京都大好きメンバー。 定番から穴場まで、幅広いKYOTOの情報をお届けします!
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