今回、取材したのは昭和22年(1947年)創業の「まるき製パン所」。
京都のパン好きならば誰もがその名を知る、〝聖地〟ともいえる場所のひとつではないでしょうか。「松原京極商店街」の一角にあるこちらのお店には、名物のコッペパンサンドなどを求めて多くの人が訪れます。
できることなら調理場の様子を見てみたいと、朝一番に伺った私の目に飛び込んできたのは…キャベツの山!
電動の専用マシン「キャベツー」(すごい名前(笑)!)がお店の片隅でフル稼働。一日に16玉くらい、千切りにするそう。
「昔はパンのスライサーで千切りをしていたこともあるよ。お店の中は、自由に好きなところを見て行って」と、二代目社長の木元廣司さん。
この日は平日で、午前4時ごろから仕込みがスタートしていたといいます。土日は午前3時から。お店がオープンするころには、パートのスタッフさんを含め総勢10人ほどが、てきぱき、きびきびと動いておられます。窯からブザーが鳴り、次々と焼きあがっていくコッペパンの美しいこと!
やわらかくて、歯切れのよさが特徴のコッペパンは、昔ながらの作り方。素材は、小麦粉と水、砂糖、塩、粉ミルク、イーストとシンプルです。焼きあがりの熱いうちにバターを塗ってツヤを出します。
「一日に何本焼くか? それは、わからへんなぁ。厨房から売れ行きを見ながら、どんどん出していくから」とのこと。飛ぶように売れるそばから、焼いて、作って、の繰り返し。出来たてをいただけるのだから、そりゃ美味しいわけだ、と納得です。
ちなみに息子の木元陽介さんもパン職人です。
「親子三代なんですね!」と私がいうと、先代の社長は義理の父だと廣司さん。
「僕の実家は近くのバイク屋さん。子どもの頃から、ここのパンを買いにきていました。高校時代に妻と付き合っていて、『継ぐ人がいない』と聞いて、それならと二代目に。だから長年、食べているわけだけれど、やっぱりうちのコッペパンはおいしいなと思うね」
そんな昔話をしつつ、マシーン自慢も。
一気にパン生地を分割、丸めることができるこちら、高級な機械らしいです。失礼ながら、少年のよう! 車好き、マシーン好きの血は健在みたい。
さて、話しをコッペパンサンドに戻して。パートさんはそれぞれ何を作るのか、明確に分担が決まっているのでは無いそう。「手が空いているときに作っていって、無いものはお客さんに対応した人がオーダーに応じて作ります」とのこと。
それが可能なのも、皆さん、作業がスピーディーだから。「長い人は40年、うちで働いてくれてます。皆、なんでか辞めやぁらへん(笑)」と廣司さん。キッチンに「ほんまやね~」と、パートさんたちの笑い声が響きます。こうした和やかで明るい雰囲気も、こちらの商品がおいしいことに一役買っているのでは、と感じました。
そして、廣司さんいわく「うちで使っている食材に、特別なこだわりはないんです。食べておいしかったらいい。逆に、おいしさだけにはこだわっています。その結果、70年間、同じ形で続いてきた古いものが、周りのものがいろいろ変わっていくなかで、新しく感じられるのかもしれませんね」とのこと。
修行探訪23軒目から得た学び。
「昔ながらの製法で、〝変わらない〟のが、かえって新しい」