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2024.03.18

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「伏見の写真館これから」運営 フォトグラファー 中田絢子さん

深草に移住し、ふかくさ暮らしを満喫されている方へのインタビュー。

今回はフォトグラファーの中田絢子さんです。2017年に深草に移住後、「伏見の写真館これから」をスタート。2023年12月には、墨染ショッピング街の一角に写真館をリニューアルオープンされました。「自分が楽しむこと」をモットーに深草で写真館を営む中田さんの思いとともに、気になる“夏至カレー大使”としての活動についてもお聞きしましたよ。

中田絢子(なかた じゅんこ)さん

出身地の高知をはじめ、福岡、大阪のフォトスタジオで、12年間キャリアを重ねた後、2017年に深草に移住。企業・メディア・行政などの撮影と並行して、自身が運営する「伏見の写真館これから」を拠点に、七五三や成人式などの記念写真や家族写真などの撮影を行う。伏見・深草を中心に、街の方々の人生の記念とともに、街の歴史を写真で残していく役割も担っている。

写真講座やワークショップ等のイベント企画運営、作家としての作品発表なども精力的に展開。夏至の日にカレーを食べて夏至を祝う活動「夏至カレー」の大使も務める。

偶然の出会いが決め手になった深草のわが家

――深草に移住された経緯について教えてください。

中田さん:結婚とともに高知から福岡に移り暮らしている時に、夫が京都市内の会社に転職することになり、私も梅田にある写真スタジオに勤めることを決めました。それで、梅田に通いやすい候補地を色々探したのですが、新興住宅地的なところはしっくり来なくて。伏見の街の雰囲気にひかれ、伏見大手筋商店街近くのマンションを借りて住み始めました。

――伏見桃山の辺りは歴史がありますもんね。

中田さん:そうですね。「なんで新しい街は感覚的になじまないんだろう」って、その時ははっきり意識していなかったんですけど、ふり返ってみると、私の祖母の家にルーツがあるんだなと。

商店街のすぐ脇にあって、日常の中に商店街の方と言葉を交わすような、昔ながらの雰囲気が残っていたんです。生活に必要なものがすべて揃う便利さやにぎわいもありつつ、一歩入ると静かに暮らせる。そういう環境に魅力を感じていたんだと思います。

――さらに、伏見桃山から深草に引っ越されたんですね。

中田さん:夫婦で「“自分ち”がほしいね」と考えるようになり、その時も京都府内でかなりエリアを広げて物件を見に行きました。ただ、なじみのない地域に終の棲家になるかもしれない家を持つことに不安があって…。「住んでいた桃山を中心に、なじみのある伏見で探そう」と見て回る中で、桃山からも近い深草で見つけた中古の一戸建てに決め、2017年に引っ越してきました。

物件を見に行った時に、そのおっちゃんがご自宅の庭でゴールデンレトリーバーとすごい戯れておられたんですよ。私も小さい頃に実家で飼っていたので可愛いなと見ていたら、目が合って「触る?」って聞いてくださって(笑)。

撫でさせてもらいながら、家を見に来たことを話したら、「神社のすぐ近くで静かだし、町内もいい人ばっかりで住みやすいよ」と薦めてくださって。神社がある場所は昔から地震などの災害が少ないから残ってきていること、京都教育大の近くだけど、真面目な学生ばかりで静かなことなども教えていただきました。

さらに、見に行った家の南側がそのお宅の庭に面していて、かなり広いのですが、「うちは売るつもりないから南側も開いてるまま。大丈夫やで!」と太鼓判を押してくださって。それで具体的に住むイメージができて、安心して決めることができました。

リフォームした自宅にスタジオを併設

――初めから自宅にスタジオを設ける計画だったのですか?

中田さん:購入した家のリフォームは、同じ伏見の中書島にあるIROHA設計室さんにお願いしました。そこの建築士の方が、二人の好きなものや大切にしていることなどをじっくり聞いてくださったんですよね。

その頃、梅田まで毎日通勤するのが、時間がかかって人も多いし、ちょっとしんどいなと思い始めていたんです。それで、「将来的には近場で撮影の仕事ができたらいいな」「自分の家でスタジオができたら楽なんですけどね」と何気なく話したことがきっかけでした。

そこから、撮影に必要な条件を確認して、図面に落とし込んでくださったんです。

――物件について、何か決め手はあったんですか?

中田さん:予算内で、「京阪の駅近」「京都駅に出やすい」「駐車場付き」「南側が開けている」という希望条件を満たしていたことが前提なのですが、裏のお宅の方がとてもいい方で、周辺の環境について教えていただいたことも大きかったですね。

――建築士さんからの提案を受けて実現したわけですね。

中田さん:そうです。玄関を入ってすぐの土間のようなスペースに、6畳分のスタジオを作ることができました。家でできるとは全然思ってなかったですし、本当に意外でうれしい驚きでした。

もともと“地域の写真館”という存在に対しての思い入れもあったことから、2017年末より「伏見の写真館これから」をスタートしました。

――フリーで活動されるだけでなく、写真館をしようと思われたのは?

中田さん:高知で勤めていた写真館が、地域の方々のお宮参りから七五三、成人式などを撮っている、いわゆる“街の写真館”だったんです。学校も何校か担当していて、行事にも同行して撮影を行っていました。

そこの社長から、「私たちは地域の方々を撮っているけれど、人物の撮影を通じて街の歴史を残していっている。それも街の写真館の役割なんだよ」と教えていただきました。

その時は「そうなんだ…」とふわっと理解していたのですが、キャリアを重ねるにしたがって、その意味や使命をより意識するようになっていきました。

――写真館は昔に比べると少なくなっていますよね?

中田さん:そうなんです。学生時代からお世話になっていた恩師も写真館をされていましたが、私が高知で働いている時に廃業されて。「継ぎたい」という思いはあったものの、経験も浅く、とても言い出せる状態ではありませんでした。

伏見に引っ越してきてからも、大手筋に写真館を見つけて、「毎年撮っている結婚記念日の写真をいつかお願いしたいな」と楽しみにしていたのですが、ある日お店が閉まっていてショックを受けて…。

このままなくなってしまったら、街の歴史を伝える活動が途絶えてしまう。今の自分なら、技術的にもやっていける。できることなら継がせてもらえないだろうか――。

そんな思いを手紙につづって、その時勤務していたスタジオの伝手をたどって託したんです。思いは伝わったものの、結果的にさまざまな事情から継ぐことは叶いませんでした。

――街の歴史を記録していく役割を自身が担っていきたいと?

中田さん:そうですね。おおげさですけど、街の歴史を伝える役割を担っていきたいという思いがありました。ただ、技術的には可能でも、テナント料などの経営面では不安はありました。ですから、自宅で少しずつでも、自分にできる方法でやっていこうとの思いで始めたわけです。

墨染ショッピング街に写真館をリニューアルオープン

――2023年末に、墨染ショッピング街に写真館をオープンされたのですよね?
2023年末に墨染ショッピング街にリニューアルオープン(2点とも中田さん撮影)

中田さん:自宅のスタジオで「伏見の写真館これから」を始めて、ちょうど6年を経てのリニューアルオープンとなりました。

きっかけは、撮影の実績を重ねる中で、スペース的に撮影条件が制限されてしまうケースが増えてきていたこと。もう少し広い場所がほしいと考えるようになり、テナントを探していて紹介を受けたのがこちらの場所でした。

実はここも、以前「タツタスタジオ」という写真館だったんですよ。

「街の歴史をつなぐ写真館」への念願が、三度目の正直でとうとう叶ったわけです。

――この場所でというところに大きな意味がありますよね?

中田さん:そうですね。商店街の中にある写真館としてリニューアルオープンできたのは、すごくよかったなと思います。

本当に、深草という地域でのご縁がつながって、つながって実現できたと感じています。

スタジオ内には「タツタスタジオ」時代の看板が
――どんなふうに運営されていきたいと思われていますか?

中田さん:撮影の面では、例えば七五三の場合、神社で撮ることが多いのですが、当日雨の場合は中止になることがあります。それをスタジオ撮影で対応できますので、せっかく揃われたご家族の大切な機会を活かすうえでも、活用いただければと思っています。

あとは、居場所としての役割も大きいですね。「街の方たちがふらっと来られるような居場所があったらなぁ」という思いもありましたし、逆に「私が街の方々に関わるための居場所」という意味もあります。むしろ、そっちの方が大きいかもしれないですね。

――「深草の街への関わりを深めたい」という思いが強かったわけですね。

中田さん:子どもの頃、通っていた学校の関係で近所に友だちがあまりいなかったんですよ。ですから、自分が住んでいる地域に居場所がほしいっていう思いがずっとあったように思いますね。

――地域の皆さんの反応はどうですか?

中田さん:墨染ショッピング街の方をはじめとして地域の方々から、「頑張ってや!」「頼むで!」と声を掛けていただくことが多いです。

また、前のタツタスタジオさんを知っている方が立ち寄って、「いっぱい写真撮ってもらったんよ」と話しかけてくださることも。みなさんにとって、「閉まっていたシャッターが開いた」ことが、すごく大きな意味があるんだなと感じています。もうそれは想定していた以上に、期待の星、エース登場!っていう感じで。場所を借りるってすごいことなんだなとあらためて思いますし、「これは頑張らなあかん!」と励みにもなっています。

深草での地域活動の基本は、「自分が楽しめる」こと

――以前から深草地域での活動にも力を入れておられますよね?

中田さん:墨染ショッピング街に加盟しているほか、「藤森神社盆踊りフェスティバル」では、人出が足りないという話を聞いて、こちらから「記録写真を撮らせてください」とお願いしました。それまでは、実行委員さんが他の業務の合間に撮っておられたんですけど、それって私の経験上からもすごく大変なんですよ。ですので、専任で撮影を担当させてもらっています。

その他には、北鍵屋公園の再生や利活用を考えるプロジェクトチームに所属し、地域住民目線でミーティングに参加。

また、伏見区役所深草支所が行っている、地域ライターの記事によって深草を盛り上げていく「E-TOKO深草ライターチーム」では写真講座を担当しています。

――お忙しい中で活動に参加するのは大変ではないですか?

中田さん:自分を犠牲にしてみんなのために…という気持ちではなく、まず自分が楽しめることを基本にしています。深草で楽しくつながりを深めることで、地域の中で自分の役割や居場所ができ、安心して暮らせていますし、広い意味で写真館の活動にもプラスになっていると感じます。

――深草の地域性も大きいのでしょうか?

中田さん:そうですね。自分の手の届く範囲で暮らしをよくしようと、小さな活動や取り組みをされている方が多いですし、また、そういう方たちを応援する風土がありますね。

墨染ショッピング街に加盟していますが、個店がお互いに応援し合って活動していて、さらに商店街以外のお店であっても、同じ地域だからと何かと親切に気遣う雰囲気が根付いているなと感じます。

住んでいて感じる深草の魅力とは?

――実際に住んでみて、いかがですか?

中田さん:引っ越し前に聞いていたとおり、静かで暮らしやすいです。利便性の面でも、普段の生活の中で必要な用事は深草の中だけで十分事足りますし、京都の街中にも大阪にも気軽に出かけられて便利ですね。

私が深草でよく行くお店は、POPでアメリカンな空間とオーナー夫妻の人柄がステキな「カフェSMILE STAR」さん、サバドッグがお気に入りの「ANKH(アンク)」さん、よくカレーを食べに行く「喫茶うずら」さん、スパイスの使い方が抜群に上手なクッキー専門店「LuckyDuckyCooky」さんなど。実は個性あふれる素敵なお店がたくさんあるんですよ。

――撮影対象としての深草の街は?

中田さん:緑豊かな藤森神社や桜並木の疏水沿いなど美しい風景があり、ロケ撮影でよくお薦めしています。

その他にも暮らしに根差した場所や場面にもすごく魅力を感じていて、地元の方が感じる“この街らしさ”を残していきたくて、その意味でもロケ撮影を提案しています。

緑に包まれた藤森神社の参道 (2点とも中田さん撮影)
稲荷から墨染までの疏水沿いを彩る桜並木(2点とも中田さん撮影)

つながりを生み出している、「夏至カレー」の活動

――「夏至カレー」について教えてください。

中田さん:子どもの頃から日の長い夏が大好きだったので、一年で最も日が長くなる夏至を自分なりにお祝いしようと、夏に似合う食べ物としてカレーを食べることにしたのが、「夏至カレー」の始まりです。

全く個人的な活動だったのですが、SNSをきっかけに認知され始めて、さまざまなお店などとコラボをしたり、オリジナルTシャツを作成してネット販売したりと「夏至カレー大使」としての活動が広がっていきました。

――納屋町商店街などでイベントも行われていますよね。

中田さん:大手筋の近くにある納屋町商店街が、「夏至カレー」にちなんだイベントを開催されています。

「夏至カレー」がきっかけで、納屋町商店街の小林呉服店さんでスマホの撮影教室を開催するなどのご縁もできました。個人的な趣味ともいえる「夏至カレー」の活動と写真館の活動が、地域で結びつく形になったのがうれしかったですね。

また、「京都移住計画」さんも「夏至カレー」に賛同してくださって、「夏至カレーナイト」というイベントを実施されていて、2022年、2023年は私もゲストとして参加させていただきました。

「京都移住計画」さんも、私が撮影の仕事で参加しているコミュニティメディアなので、ここでも二つの活動が重なり合っているんです。

――モットーの「楽しむこと」が想定外の実を結んでいるんですね。

中田さん:そうなんです。二つの活動は「趣味」と「仕事」として意識的に切り分けてはいたものの、あまりにも違う内容で別々に進んでいて…。「夏至カレー」が広まって活動が盛んになるにつれて、「このまま行って大丈夫かな」という思いに駆られることもあったんです。

それが、段々自分なりに納得できるバランスの取り方ができるようになってきました。

夏場は撮影の仕事が比較的少ないこともあるのですが、私自身が「楽しむこと」に徹底してこだわった結果、「面白そう!」と賛同してくださる方が増えたのかなとも思います。

撮影をきっかけに「夏至カレー」に興味を持ってくださる方、逆に、「夏至カレー」から写真館のことを知ってくださる方と両方おられて、クロスオーバーしている点もすごくうれしいですね。

2023年6月、「京都移住計画」主催の「夏至カレーナイト」ではゲストとして参加
――趣味と仕事、そこに“地域”がベースとしてあるということですね。

中田さん:本当にそう。納屋町商店街の場合も、「面白そうやな」とすぐに共感してくださって、地域の力がうまく包み込んでくれている感じはありますね。

これまでやってきたさまざまなことが、すべて無駄ではなかったし、どちらも楽しむことを大切に取り組んできてよかったなと感じます。

――最後に、写真館の活動で今後目指していきたいことを教えてください。

中田さん:まだまだ地域で写真館のことを知っていただいていない方が多くおられますので、接点を増やすさまざまな取り組みを考えていきたいです。

また、写真、音楽、デザインなどの芸術文化方面から、深草や伏見の魅力を発信する人とも協同してみたいです。

いずれも、この深草という地域をベースに、面白いことができそうな予感がしています!

Information
店舗・施設名 伏見の写真館これから
住所 京都市伏見区深草北新町641-2
営業時間 応相談(事前予約制)
交通 京阪電車「墨染」駅より徒歩1分
JR奈良線「JR藤森」駅より徒歩9分
墨染交差点より東へ約20m
駐車場 なし
ホームページ https://nakatajunko.com/

Writerデジスタイル京都スタッフ

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Writerデジスタイル京都スタッフ

タカラサプライコミュニケーションズではたらく京都大好きメンバー。 定番から穴場まで、幅広いKYOTOの情報をお届けします!
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