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ロケ地から見る京のまち

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【独占鼎談】オール京都ロケ!監督×プロデューサー×原作者が語る『ミュジコフィリア』制作裏話

2022/02/18

約2年ぶりのご無沙汰でございます。日々の暮らしの「当たり前」がすっかり様変わりしてしまい、新しい生活様式に慣れていくなかで、ロケ地のことなどすっかり片隅に追いやられてしまっているのでは、と恐々としております。

 

ようこそ、おおきに。椿屋劇場支配人改め、映画ライター椿屋です。

みなさん、京都お好きですか? 音楽、お好きですか?

 

今回は、京都を舞台にした『ミュジコフィリア』の魅力に迫りたいと思います。

この作品、京都の大学で教鞭をとられていた漫画家さそうあきら先生の原作を、京都に暮らす大野裕之プロデューサーが脚本化し、京都出身の谷口正晃監督が映像化したという京都尽くしの映画。もちろん、オール京都ロケ!

重要な役割を担う劇中音楽は京都市立芸術大学の、世界観をつくりだすロケ地手配には京都市の、全面協力によって撮影された本作を、この「ロケ地から見る京のまち」でご紹介しないわけにはまいりません。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

全国公開は2021年秋だったものの、この度、2月18日から京都シネマでアンコール上映が決定したのです。なんたる朗報でしょう! 見逃した皆さま、必見ですよ。

 

ここで、簡単に物語をご紹介しておきましょう。

この映画は、音と風景が印象的なまち・京都に暮らす、音楽に情熱を注ぐ者たち=ミュジコフィリアの青春群像劇です。目指したのは、「観光映画ではなく、音楽映画」。現代音楽をテーマにした世界初の映画といっても過言ではありません。

 

ひょんなことから大野プロデューサーとのご縁を頂戴し、今回の贅沢すぎるオンライン鼎談が実現いたしました。コロナがもたらした数少ない良き変化ともいえるテレワーク普及のおかげでございますね。

谷口監督、さそう先生、大野プロデューサーのお三方のお話から、映画『ミュジコフィリア』の魅力に迫りたいと存じます。

まずは、音楽映画の要である「音楽」について。

――原作となった同名作品は、京都を舞台に、音楽への深い愛情と知識があふれた音楽コミックの傑作として名高いですが、なぜ京都を舞台に音楽についての物語を描こうと思われたのでしょうか。

 

さそう 2006年から京都の大学で教えるようになり、両親と姉も京都へ移り住んだこともあって京都が実家みたいなかんじになりました。昔から京都には「伝統と革新」という印象を持っていましたし、ノイズ音楽発祥の地である京都というまちから聴こえる環境音と音楽の関係性にも興味がありました。通勤するときは必ず自転車で賀茂川沿いに北上するんですが、そのときに耳にする音を音楽として漫画に入れることができないかな?と常々考えていたので、作曲を題材にして描こうと考えたときに舞台にするにはうってつけだなと思いました。

 

大野 映画は何よりも京都の地場産業。日本映画の半分は京都で撮られていて、いわば京都は東洋のハリウッドです。そんな京都を舞台にした現代劇を創りたいと意気込むなかで、さそう先生の原作に出合いました。芸術の都である京都で現代音楽をテーマにした漫画は、先生の言葉どおり「伝統と革新」が共存する京都でしかあり得ない世界でした。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

――そんな思い入れのある作品を映像化するにあたり、京都市立芸術大学との協同で創り出された音楽はとても重要な役割を果たしていますね。

 

大野 原作には、有名な作曲家による現代音楽や、高名な現代音楽家をモデルとした人物がたくさん登場します。原作のとおりに著名な音楽家にお願いをして創っていただくことも可能でしたが、京都で若者たちが新しい音楽に挑むという原作がもつエッセンスを表現するには、映像の中で若い才能たちにやってもらう方が原作の魂を受け継げるに違いないという確信から、あえて京都市立芸大の在学生・卒業生の皆さんに新曲の作曲をお願いしました。

 

谷口 ゼロから音楽を創っていくだけでなく、出来上がったものを出演者が練習して現場でも演奏して……と音楽映画には段階がいくつもあって、ふつうに映画を撮るより時間も手間もかかるものです。その要となるところを学生さんに委ねるのは、とても素晴らしい試みだと思いつつも、正直に言えば怖いことでもありました。けれど、いろんなやりとりを経て、最終的にはとてもいいものを創ってもらいました。僕自身、こういう音楽に彩られて、こういうカタチで着地するんだということが最初からすべて見えてたわけではありません。やっていくなかで「ああ、このシーンはこういう音楽になるんだなぁ」とか「このキャラクターを解釈してこう創ってくれたんだな」と驚きや発見も含めてキャッチボールを重ね、たくさんの学生さんや先生方と一緒にドキドキもあるけどとても貴重な経験ができました。

 

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

さそう 音楽漫画はいくつか描いていますが、この「ミュジコフィリア」が一番映画にむいているだろうなとは思っていました。漫画で描いた音楽は音が聴こえない分、読んだ人に自分の中の最高の音楽を頭の中で奏でてもらえる。でも読者や観客はクラシック音楽が好きな人ばかりではありませんので、映画の中でいい演奏が鳴っていてもその時間に退屈してしまうかもしれない。「神童」や「マエストロ」ではそういう問題をどう解決するのかに製作された方は苦労されたと思います。でも現代音楽の場合は音楽の表現に様々な方法があって、漫画ではむしろ伝わらない音の世界を実際に映画の中で体験できる面白さがある。『ミュジコフィリア』はそういった意味で映画的だなと以前から思っていたので、オファーがあったときはうれしかったですし、大野さんが見つけてくださったことに感謝しています。

 

谷口 劇中の音楽に関しては何を正解とするか、慎重な判断が求められました。というのも制作の初期段階から、仕上げ時に画面の外から足していく音楽、いわゆる劇伴は一切使わず、劇中で演奏されている音楽だけで構成した方がいいと考えていたので。演奏される音楽が物語に流れのなかで劇伴としても機能するよう常に意識していました。

 

大野 そういった想いを監督が粘り強く伝えてくださり、若い才能たちにフレッシュな感性で取り組んでいただき、この作品にふさわしい素晴らしい音楽が完成したと思います。

 

さそう 脚本は読ませていただいていたので、「これがどういうふうに現実の京都の舞台で音とともに聴こえてくるのかな」と思いながら試写を観ました。こんなところでロケできたんだって場所がいっぱい出てきましたし、俳優さんたちの熱演もあって、非常に感激するところが多かったです。

 

印象的なロケ地&お気に入りのスポットとは?

さそう 個人的に原作のなかで思い入れがあったのは「無鄰菴」。まさかそこで撮影ができるなんて思ってなかったので、あれはもう本当に感激しました。最初に訪れたときから、音がきれいで気になっていて、ぜひ漫画の舞台に使いたかった場所です。あと、漫画には登場しませんが、大文字山からの春の風景はよかったし、うれしかったです。山頂からではなく火床から眺める方が、京都のまちが近く感じられますね。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

さそう 大学を辞めるときに最後のゼミの打ち上げを、コロナ禍で飲み会ができなかったので、大文字山に登りました(一同笑)。

 

谷口 ラストで凪が賀茂川で歌い上げる賀茂川の中州ですね。あのシーン以外でも、本作ではたくさん賀茂川でロケをさせていただいていますが、とくに最後の映画の肝になるシーンを賀茂川のどこで撮ればいいのかというのは重要な問題で、随分とロケハンを重ねました。僕も京都に住んでいた人間だから、一番よく行く場所でもありましたが、ここだったら最後のシーンが撮れると納得できる場所がどうしても決まらなくて……まあもう、まずまずいいと思える土手でやるべきかな?となりかけてたときに、もう一回ちょっとダメもとで賀茂川を見てみようということになったんです。そうしたら、それまで全然気づいてなかったんですが、あれ、なんか中州があるなって。しかも近くの飛び石から渡って、中州に立ってみたら、いままでとは違う賀茂川の景色が広がっていて、それはとても気持ちのいい眺めの場所でした。ああ、ここだったらラストの凪の歌が撮れる!と確信しました。よく知ってるつもりの賀茂川だったんだけど、あの場所は見落としていて、大きな大きな発見でした。ぜひ撮らせてほしいとお願いして、なんとか撮影が実現しました。粘ってよかったと思っています。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

さそう あれって、賀茂川のどのへんでしたっけ?

 

谷口 植物園の近くですね。

 

さそう ああ、北山のへんですか?

 

大野 そうですね。北山大橋と北大路の間くらいです。

 

さそう そこは僕が毎日自転車で通ってた場所で、ときどき中州に上陸したりもしていたので、僕にとっても思い入れがありました。原作ではああいうシーンはないんですけど、僕が最初に描いた『神童』(双葉社刊)というピアニストの漫画で、音楽は戸外の環境の音の中で演奏されてもいいんだ、という趣旨でピアノを外で弾く場面があったので、そういう意味でも「ああ、ピアノが賀茂川に出たんだ!」とうれしかったですね。

 

大野 あれは実際のピアノをえっちらおっちら運んでいってますので(笑)。ピアノを賀茂川に出しての撮影は、本当に得難い体験ではありましたね。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

大野 ちなみに、無鄰菴と泉涌寺仏殿は、映画でロケが行われたのが史上初めてとのことです。特に無鄰菴は原作に描かれていることもあり、どうしてもそこで撮影したいと思いました。もちろん、京都には素晴らしいお庭が他にもたくさんあるので、どこかほかの場所で撮影をしても美しいものになったと思いますが、無鄰菴にこだわったのは、やはり音でした。琵琶湖疎水の水が流れ込んでくる音、自然の音。その音がちょっとしたことで変化するのを感じる。さそう先生の思い入れのある「音」を大切にしたくて、絶対に無鄰菴でやってほしいと言い続けていたら、例外的に2時間だけ撮影が許可されたのは有り難いことでした。

皇室の菩提寺である御寺泉涌寺は、以前、今回の出演者である石丸幹二さんが野外コンサートをされていたこともあり、ぜひともコンサートシーンを泉涌寺で撮影したいと思って脚本に書いたところ、これも非常に例外的に許可が下りました。京都のいろんな方々のお力添えのおかげで特別なロケ地で撮影できました。「観光映画にしたくない」という監督の言葉どおり、京都に息づく人の目から見た風景になったのではないかと思っています。

 

 

――では、最後に。ロケ地以外でも、それぞれのお気に入りの場所や風景を教えてください。

 

さそう 僕はずっと自転車で賀茂川を通っていたので、賀茂川ですね。いろんな見どころがあって、誰にでもオススメしたい場所です。先ほどお話に出た北山の植物園の方へ上がっていって大学に行くんですけど、よく植物園には寄ったんですよね。年間パスも安くって。四季折々の植物があり、いつ行っても心休まる場所で思い出深いです。あと、幽霊の名所として知られる深泥池も個人的には美しいところだなと思っていて、お気に入りの場所でした。

 

谷口 僕は高校が東山だったのですが、南禅寺の周辺も趣があっていいところだなと思います。

 

さそう 僕も南禅寺は大好きです。あそこもやっぱり水の音がすごく良くて。黛敏郎が、南禅寺の周りに京都中の除夜の鐘が聞こえる場所があるって言ってて。

 

一同 ほー!!

 

さそう それを探しにいこう!って嫁さんとうろうろして、ここでは?って場所があったんですよね。路地の真ん中みたいなところ。そこで聴く、いろんな方向から届く除夜の鐘が美しかったのを覚えています。音色にもいろんな種類があって、それを鑑賞するにもうってつけの場所ですよ。

 

大野 皆さんが京都の自然や旧跡を選ばれたので、ここはあえて屋内を選んで、柳月堂をお勧めします。昔からある名曲喫茶で、中でしゃべってはいけないというものすごい場所です。完全な静寂が得られるので、そこで本を読んだり、ものを考えたりするには素晴らしいところです。そういう、京都でしかあり得ない空間が好きですね。僕はチャップリンの研究家ですので、チャップリンが泊まった柊家のお茶室に何回か泊めていただいたことがあるんですが、別の宇宙なんですよね。京都では、何気ない建物の奥にふっと入った先にある小さなお茶室と庭が、無限の空間を感じさせる宇宙だったりする。あちこちに宇宙の入り口というか、魔界の入り口がある(笑)。好きな場所をひとつに絞れないのは、たくさんありすぎて選べないのもありますが、まだ見ぬ魔界がいっぱいあるだろうから選べないんですよね。そういう意味では、京都は奥深いロールプレイングゲームみたいな街です。経験値を積めば次のステージに行けるし、ボスキャラに出会ったらワープできる、みたいな。いまこの記事をお読みの方々には、ぜひ『ミュジコフィリア』を入り口に、地理的ではなく空間的にも時間的にも京都を深く探検してほしいですね。

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

 

作品データ

(C)2021 musicophilia film partners (C)さそうあきら/双葉社

『ミュジコフィリア』

監督:谷口正晃

脚本:大野裕之

原作:さそうあきら

出演:井之脇海、松本穂香、山崎育三郎、石丸幹二、ほか

配給:アーク・フィルムズ

 

2022年2月18日より、京都シネマにてアンコール上映

https://musicophilia-film.com/

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ライター紹介

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ライター:椿屋 山田涼子

合言葉は、「映画はひとりで、劇場で」。年間200本以上の作品を映画館で観るシネマ好き。加えて、原作となる漫画や小説、テレビドラマや深夜アニメまでをも網羅する。2022年1月より、雑誌「あまから手帖」で映画コラム「おいしい映画」を連載中。

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