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2021.04.30

こんにちは。デジスタイル京都 初取材でドキドキしながら美術館を訪問してきたミズノです!

今回は、京都市京セラ美術館にて4月17日より展示が始まっている「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」についてご紹介します。

 

京都会場メインビジュアル

 

古代エジプト展といえば、現在でも同美術館の史上最多入場者数である107万人余りが来場した、1965年開催「ツタンカーメン展」を見に行った、という方もおられるかもしれません。

大規模リノベーションによって生まれ変わった過去と未来を融合させた建物で、リニューアルオープン後はじめての大規模な企画展が、同じ古代エジプトをテーマとして開催されることを意義深く感じます。

 

京都市京セラ美術館 外観

 

【本展の概要と見どころ】

ベルリン国立博物館群のエジプト・コレクションから、「天地創造の神話」をテーマに、100点以上の日本初公開品を含む約130点の名品が展示されています。

ベルリン国立博物館は、ロンドン・大英博物館、パリ・ルーヴル美術館と並ぶ、ヨーロッパ最大級の規模と質の高さを誇る総合博物館として知られています。

本展は古代エジプトのさまざまな姿をした神々の世界、その活動の舞台、神話の意味に焦点を当てており、3つのテーマで構成されています。

■本展のテーマ

1.天地創造と神々の世界

2.ファラオと宇宙の秩序

3.死後の審判

 

古代エジプトにおいて、世界のはじまりは暗闇の中にある混沌とした「原初の海」ヌンであり、世界の終わりがやってくると同じ海に沈んでいくもの、と考えられていました。

本展はこの天地創造と終焉の物語を通して、多彩な神々の姿と人々の日常生活に息づく信仰から、社会規範、死後の世界への願いまで、多岐にわたる側面をうつしています。

 

学生時代の専攻が古代西洋史だった私にとって、個人的にとても思い入れがある本展。

実際の展示品の中で、特に気になったものを中心にじっくりご紹介していきます!

 

【1.天地創造と神々の世界】

古代エジプト社会においては、空や雲、砂漠、風などの自然や、人間や獣、昆虫などの生物、太陽や月、星ぼしに至るまで、全知全能の神々の力によってこの世の全てが創造された、と考えられていました。

同時に、身近な自然環境の中に存在するさまざまなものに神性が宿ると信じられていました。

神々の種類は多様で、太陽や大地、ライオンやヒヒ、鳥、魚類や植物など、まさに八百万(やおよろず)の神々として存在しており、本展に展示されている像やレリーフなどにその姿が生き生きと描かれています。

 

《腹ばいになる山犬の姿をしたアヌビス神像》 新王国時代、前1550~前1070年頃

 

展示室に入って直ぐ、山犬の姿をしたアヌビス神像が迎えてくれます。

古代エジプトにおいて冥界への案内人とされたアヌビス神が、神話の世界へと導いてくれるようです。

展示会キャラクターとして、展示室内で上映されるアニメーションでも活躍しています。

 

《セクメト女神座像》 新王国時代・大18王朝、アメンヘテプ3世治世、前1388~全1351年頃

 

セクメト女神は、人間の力をはるかに凌駕する超人的な存在であり、ライオンの頭を持つ女性として表されました。

雌ライオンは強さ、凶暴さ、攻撃的な意志だけでなく、防衛本能と母性愛によって特徴づけられ、好戦的であるとともに癒しの女神としての側面をあわせ持ちます。

この像が作られた地域では当時、実際ライオンが生息していたと考えられ、その姿が実に写実的に描かれています。

 

《バステト女神座像》 末期王朝時代・第26王朝、ネコ2世治世、前610~前595年頃

 

ウジャドの眼が胸に護符として装飾された猫の姿は、救いと健康を象徴しており、穏やかなライオンの女神バステトに捧げられました。

ライオンの姿をしたセクメト女神と同じように、バステトは癒しの女神として当時の人々に人気がありました。

 

【2.ファラオと宇宙の秩序】

古代エジプトでは、世界のはじまりは暗闇の中にある混沌とした「原初の海」ヌンであり、この混沌とした状況から、神々の意思により秩序ある世界が創造されたと考えられていました。

古代エジプト人は、この秩序を「マアト」と呼び、世界の秩序・摂理から、個人が生きていく中で遵守すべき最も重要な規範・道徳に至るまで及ぶと考えていました。

 

《ハトシェプスト女王のスフィンクス像(胸像)》 新王国時代・第18王朝、ハトシェプスト女王治世、前1479~全1458年頃

 

エジプトの王や王妃は、古王国時代より強い動物と同一視されることを意図して、人間の頭を持つライオンであるスフィンクスの姿で描かれました。

この姿の像では王自身が神として表現され、現実の社会の中で神に代わり、マアトを遵守して実行する役割を担っていた様子が分かります。

 

《神々に供物を捧げるトゥトアンクアメン(ツタンカーメン)王と王妃を描いたアーキトラヴ》 新王国時代・第18王朝、トゥトアンクアメン王治世、前1333~前1323年頃

 

レリーフ左側では、トゥトアンクアメン王と妻アンクエスエンアメンがメンフィスの神プタハとセクメト女神を崇め、右側には王家の夫婦が対称の位置に描かれ、テーベ神アメン・ラーとムウト女神を崇めています。

このアーキトラヴはメンフィスの神々に捧げられたものと考えられ、王自身がマアトを実践し、神々を信仰する姿が描かれています。

 

■庶民信仰

古代エジプトにおける国民の大多数は、ナイル川流域の耕地で農作業に従事する農民を中心とした庶民たちで、彼らが日々暮らしの中で信仰の対象としたのは、身近な願いを叶えてくれる神々でした。

 

《ベス神の小像》 新王国時代・第18王朝、前1550~前1292年頃

 

古代エジプトの一般の人々にとって、最大の関心事は家族の安寧と健康。中でも家族を守る代表的な神がベス神です。

怖い表情をすることで邪悪なものを遠ざける魔除けとして、タウレト女神の出産を守る神として、またヘビを家に寄せつけない神として、庶民に大変人気がありました。

古代エジプトの神々の中で最も広く信仰された神のうちの一柱であり、国境をも越えてローマ時代には地中海の周辺でも崇拝されていました。

 

■太陽信仰

古代エジプト人にとって、太陽の日々の運行は再生・復活の考え方を確実にするもの、として理解されていました。

毎夜、太陽神は大蛇アポピスにより運行を邪魔されますが、多くの神々の助けを得て大蛇に勝利し、翌朝必ず東の天に再生するとされていたのです。

 

《プタハメス墓のピラミディオン》 新王国時代・第18王朝、アメンヘテプ3世治世、前1388~前1351年頃

 

新王国時代、高級官僚の記念碑的墓の上部構造には、ピラミディオン(小ピラミッド)が置かれていました。

ひざまずき両手を上げて礼拝する被葬者の姿が描かれた面は、太陽が昇る東側を向いて設置され、再生の象徴である日の出の光があたるようになっていました。

 

《太陽の船に乗るスカラベを描いたパネヘシのペクトラル(胸飾り)》 新王国時代・第20王朝、前1186~前1070年頃

 

船の上に大きな青色のスカラベの姿をした太陽神が描かれています。

太陽神が毎朝新たに生まれるのと同じように、死者も冥界において新しい命が与えられることを願う。スカラベはそんな再生の象徴を表しています。

裏面には、死者の名前と称号がハート・スカラベの呪文とともに記されています。これは、心がある場所とされた心臓に、最後の審判を通過できるように生前の善行を強調するよう呼び掛けることが目的でした。

 

【3.死後の審判】

死者は、墓地の守護神でミイラ作りの神でもある山犬の頭をしたアヌビス神により、「2つのマアト(正義)の広間」に導かれます。

ここで死者の審判がおこなわれ、死者の心臓は天秤ばかりにかけられ、マアトを象徴する羽根と釣り合うか計られました

古代エジプト人は、考えたり思ったりする器官は脳ではなく心臓が担うと考えており、心臓の役割は重要でした。

 

《タレメチュエンバステトの『死者の書』》 プトレマイオス朝時代初期、前332~前246年頃

 

『死者の書』とは、死後に必要な知識を呪文と挿絵で示したもので、死者が危険を逃れて来世でも生命が続くように神々に懇願する上で役立つ、とされていました。

第125章の「罪の否定告白」では、死者が生前に特定の罪を犯していないことを宣言しています。

天秤が釣り合う、つまりマアトに従って生きたことが証明され、死後の世界に行くことが許されるのです。

 

《デモティックの銘文のあるパレメチュシグのミイラ・マスク》 ローマ支配時代、後50~後100年頃

 

このミイラ・マスクはパレメチュシグという男性のもので、銘文はデモティック(民衆文字)によって埋葬の日付、男性やその父の名前が記されています。

装飾には多数の守護神や象徴が含まれ、自由に動き回る神聖な存在としての死者を示すトキ、ウジャドの眼、マアト女神の羽根を掴んでいる死者のバー鳥などが描かれています。

 

《タバケトエンタアシュケトのカノポス容器》 第3中間期・第22王朝、タケロト2世治世、前841~前816年頃

 

古代エジプト人は、魂は死後身体と関連してのみ生き続けることができると信じていたため、身体の保存を確実にするミイラ化を行い、臓器をこのカノポス容器に納めました。

カノポス容器は、姿の異なるホルス神の4人の息子たちの守護下にあり、それぞれ特定の臓器を守護しました。

 

《有翼スカラベ形のミイラの護符》 《有翼スカラベ形のミイラの護符(左翼)(右翼)》 《日輪を戴くハヤブサ頭の襟飾りの左端部分・右側端部分》など

 

 

死者が危険にさらされることを回避するため、ミイラ化する際、包帯の間や、包帯を巻き終わった体の上に、さまざまな護符が置かれました。

 

《タイレトカプという名の女性の人型棺・内棺》 第3中間期末期~末期王朝時代初期・第25王朝~26王朝、前746~前525年頃

 

 

『死者の書』から抜粋された呪文が主に描かれますが、その他の装飾として、胸部には天空の女神ヌウトの下に太陽円盤が描かれ、その下には死者が横たわり、再生や来世でも続く生命を象徴するように照らされています。

永遠の生命に対する願いは、棺の外側、本体部分、蓋の内側にも呪文として書かれていました。

 

一連の展示を通して、古代エジプト人が死後確実に再生・復活する、ということにどれほど心を砕いていたかが分かります。

それはまさに、死後の世界への願いだったのでしょう。

 

■死後の生活

死者は、死後に待ち受ける困難や試練に対して、呪文を唱えることで乗り越え、最終的に死者の楽園である「イルア野(葦の野)」を目指しました。

そこにはナイル川が流れ、ナツメヤシが生い茂るエジプトそのものの光景が広がっており、エジプト人が来世においても現世と同じナイル川流域で、生前と変わらない生活が送れることを切望していたことを示しています。

 

上:《クウイトエンプタハの偽扉》 下:《ラー神とハトホル女神の神官であったマアケルウプタハの供物台》 古王国時代・第5~6王朝、前2479~前2191年頃

 

 

エジプトの墓の礼拝室では、偽扉が礼拝の主な場所であり、現世と来世の境界としての役割を果たしました。

また、偽扉とともに供物卓や床に置いた供物台が儀礼場所を示していました。

供物台の4つの窪みは、ワインやビール、パンや果物といった供物を捧げるために使われ、さらにヒエログリフ(神聖文字)によって典型的な供養文やさまざまな供物が記され、死者に捧げられる日々の供物の永久性を保証しました。

 

右から: 《ウアフのシャブティ像》 《パケドゥのシャブティ像》 《プタハメスのシャブティ像》 新王国時代・第19王朝、前1292~前1186年頃 《普段着をまとったシャブティ像》 新王国時代、前1550~前1070年頃 《上部が丸くなった棺型のシャブティ・ボックス》 第3中間期末期~末期王朝時代初期・第25王朝~26王朝、前746~前525年頃

 

シャブティは古代エジプトの副葬品で最も普及していたもので、来世での労働者としての機能をもち、彼らの所有者に代わって農作業を行うとされていたので、鍬や鋤などの農作業の道具を握っています。

1年のうち祝日を除く360日について、1日につき働くシャブティが1体(計360体)、それを監督するシャブティが10日につき1体(計36体)含まれ、合計396体のシャブティ像が副葬されました。

働く人がサボることを前提に監督者を配置する、という点に今も昔も変わらない人の性が垣間見え、とても興味深いです。

後にシャブティ像はどんどん小さくなり、最終的にシャブティ・ボックスに396体全てが納まるサイズとなりました。

 

■オシリスの予言

「原初の海」ヌンから創られた世界は、永遠に続くとは考えられていませんでした。

ヌンの中に自らを出現させ、その力により秩序ある世界を作り上げたアトゥム神は、いつの日か彼が創造した全てのものを消し去り、再び暗闇が支配するヌンだけが横たわる状態に戻るとされていました。

しかし、そこにはアトゥム神と再生神のオシリスが生き残り、オシリス神の力によって、かつて存在した秩序ある世界が確実に再生できるよう願ったのです。

 

《3匹の魚とロータスを描いた浅鉢》 新王国時代・第18王朝、前1450~前1400年頃

 

生命を与えるナイル川を象徴する魚とロータスを描くこの美しいコバルトブルーの浅鉢は、図録の作品番号がNo.1ですが、本展の最後に展示されています。

頭が1つしかない3匹の魚は、すべての起源である創造神のさまざまな側面を表しており、世界の再生と循環を暗示しています。

 

最後にこの浅鉢を見た時、きっともう一度、天地創造と神々の世界を見直したくなるでしょう。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

思い入れが強すぎて、少々語りすぎてしまいましたが・・・。

京都市京セラ美術館は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、5月11日まで臨時休館しています。

その間、今回の記事を読んで、少しでも本展の雰囲気を感じ取って頂けたら幸いです!

 

■音声ガイド

本展の音声ガイドは下記の2種類あります。

 

1)聴いて旅する古代エジプトの世界

ナレーション / 語り:荒牧慶彦

大人気俳優荒牧慶彦がナレーターだけではなく、古代エジプト神話の語り手もつとめる音声ガイドです。ナレーションと語りで2倍お楽しみいただけます。

貸出料金:600円(税込)※お一人様一台

解説時間:約30分(18件)

 

2) QuizKnockからの挑戦状 めざせ古代エジプトクイズ王

クイズ出題者:QuizKnock

ナレーション:荒牧慶彦

荒牧慶彦のナレーションにプラスして、QuizKnock新作オリジナルクイズを出題!君にこの謎が解けるか!

貸出料金:600円(税込)※お一人様一台

解説時間:約30分(18件うちクイズ6問)

 

監修:近藤二郎

企画・制作:東映、アートアンドパート

 

展覧会の詳細は、公式サイトをご覧ください。

https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20210417-20210627

 

 

 

Information
店舗・施設名 京都市京セラ美術館
住所 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
電話番号 075-771-4334
営業時間 開館時間:10:00~18:00
(入場は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日
※祝日の場合は開館/年末年始
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、5月11日まで臨時休館
交通 <電車>
地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約8分

京阪「三条駅」・地下鉄東西線「三条京阪駅」より徒歩約16分

※滋賀方面からお越しの方は、京阪・JR・地下鉄東西線「山科駅」から地下鉄東西線「東山駅」へのお越しが便利です。

<市バス>
JR・近鉄・地下鉄「京都駅」から

A1のりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

D1のりば
100系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

D2のりば
86系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

<阪急「京都河原町駅」から>
Aのりば
岡崎ループ号「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車すぐ

Eのりば
46系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

Hのりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

<京阪「三条駅」から>
Dのりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

岡崎ループ号
「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車すぐ
お問合せ先 075-771-4334(受付時間/10:00~18:00 12月28日~1月2日を除く)
ホームページ https://kyotocity-kyocera.museum/
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