2021.02.15

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=油井やすこ

 

「一保堂茶舗」に嫁いだ著者が綴るお茶と京都の豊かな関係

 

 

 

『お茶の味 京都寺町 一保堂茶舖』(新潮文庫/渡辺都)『お茶の味 京都寺町 一保堂茶舖』(新潮文庫/渡辺都)

 

自分はインドア派で、人と会わない生活はわりと平気なほうだ。

 

などという自負は実は単なる思い込みだったと、思い知らされた2020年だった。

 

世界中が新型コロナウイルスに振り回され、ライターという職業柄ただでさえ長い自宅滞在時間は劇的に増えた。取材はZoomか電話で済まされるようになり、会食は制限され、人と話すのはもっぱらオンライン。無駄だと思っていた移動時間や雑談の大切さに気づけたのが、唯一の収穫かもしれない。

 

外出に罪悪感が伴うという事態に戸惑い、鬱々と過ごしていた時にふと手に取ったのが、今回ご紹介する『お茶の味 京都寺町 一保堂茶舖』(新潮文庫/渡辺都)だった。江戸時代半ばから京都に店を構える「一保堂茶舗」に嫁いだ著者によるエッセイ。本のタイトルどおり、お茶にまつわるあれこれが詰まった一冊だ。

 

一保堂といえば、京都は寺町二条に本店がある人気の茶舗。市内の飲食店を取材していると、「うちは一保堂さんのお茶をお出ししています」ということも珍しくない。それを聞いて私は「ああ、なるほど、間違いないですね」と返すのが常で、そんなやりとりがあるお店は決まってどの料理も美味しくて気配りが行き届いている。料理の後に味わうお茶の美味しさは言うまでもない。

 

春の雨は音までやわらかな気がします。

 

という一文で始まる本書は、丁寧に淹れられたお茶さながらに、深呼吸したくなるような優しい文体が心地よい。

 

その年の新茶の出来を占う春の食材の話や茶畑のこと、多種多様なお茶がどのように生産されるのか、そもそもお茶がどのように伝わってどんな形で飲まれてきたのか。京都の歳時記やお店での作業の様子も含め、まるで茶飲み話のように軽やかに、様々な話題が展開されていく。普段何気なく飲んでいるものが、どれほどの時間と人手をかけて私たちの手に届くものなのかと感嘆せずにはいられなかった。

 

身近な煎茶やほうじ茶をはじめ、お茶の種類ごとの美味しい淹れ方についても触れられている。だが、よくある「スプーン●杯の茶葉に●℃のお湯を●分」という説明だけではもちろん終わらない。同じ煎茶でも、産地などによりその味わいは千差万別と著者は語る。

 

素材は茶葉とお湯の二つだけですが、「茶葉の量」「お湯の温度」浸しておく「時間」の三つの関係が、味に多いに関わってきます。この「三角関係」をコントロールすることこそ、お茶を上手に淹れるコツだと思うようになりました。

(中略)

適量、適温、適時の「三角関係」を念頭に置いて、アツアツもよし、冷たく淹れても、またぬるめの旨味たっぷりも魅力的。自由自在にご自分のお好みの淹れ方を見つけてごらんになるのはいかがでしょう。

 

何度のお茶を何分、と聞いてもすぐに忘れてしまう私だが、本書の説明はとても分かりやすく腑に落ちた。どこまでも奥が深いお茶の世界だが、ティーバッグでの楽しみ方や水出しで気軽に楽しむ方法もある。案外自由な面を知って、少し肩の力が抜けた気がする。

 

さて、この原稿を書き終わったら、アツアツのほうじ茶とチョコレート(意外と合うのでぜひお試しを)でホッとひと息入れるとしよう。お気に入りのお茶を相棒に、読書を楽しむ時間を大切にしたいと思う。

 

 

本を通して見る「京の町」

 

一保堂の本店がある寺町通二条上ル周辺へは、地下鉄東西線「京都市役所前駅」から北へ徒歩5分ほど。骨董店や茶道具店、歴史あるベーカリーや洋菓子店、和菓子店、カフェなど新旧様々なお店が並んでいる。落ち着いた雰囲気の通りから北へまっすぐ歩けば御所、東に向かえば鴨川へ。有名な観光地とはひと味違った、普段着の京都を垣間見ることができる散策コースだ。

 

 

Information
店舗・施設名 一保堂茶舗 京都本店
住所 京都市中京区寺町通二条上ル常盤木町52
ホームページ https://www.ippodo-tea.co.jp/
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