酒にまつわるお話

vol.１　日本最大のハイカラ食堂誕生 vol.２「洋食の大衆化」という使命からの解放

◆デパートの大食堂に日本の食のグローバル化の足跡をたどる◆vol.2

「洋食の大衆化」という使命からの解放

　戦時下で、規模縮小、一時閉鎖を余儀なくされたうめだ阪急の大食堂が、名実ともに再出発することになったのは昭和25年のこと。やがて、うどんやパン、米飯の提供も可能になり、大食堂は、再び、往時の活況を取り戻した。和食・喫茶メニューの他、中華ではチャンポン、洋食メニューでは、お子様ランチや、チキンカツレツ、ロールキャベツなども加わった。昭和30年代に入ると、スパゲッティ（ミートソース、ナポリタン）などの新メニューが人気となり、中華メニューも充実した。
「もはや戦後ではない」といわれた高度成長期、デパートは流行・文化の発信地であり、大食堂は家族連れで賑わうハレの場だった。昭和36年入社の食堂部副参与・兵藤利男氏は当時を語る。

「その頃の大食堂は高級なイメージがありましたね。まだナイフやフォークを使って食事をする店は少なかった時代です。みんな、ライスは必ずフォークの背に乗せて食べていましたよ（笑）。家族で外食を楽しむようになったのも、欧米の影響でしょう。女性同士で気軽に入れたことも大きいですね」

　昭和30年代からは、食の嗜好の多様化に対応するため、大食堂に加え、天ぷら屋などの専門店の新規開店が始まる。８階は食堂街になり、広東料理、パスタなど、和洋中の専門料理店が次第に増えていった。かつては時代の先端の食を提供していた大食堂の地位も、少しずつ変化していく。昭和初期までは、あまり馴染みのなかった洋食が家庭でも外でも日常的に食べられるようになっていったのだ。兵藤氏によれば「洋食が大衆化した時期とは、ちょうど”ライスカレー“が、”カレーライス“と呼ばれるようになった頃ではないか」とのことである。

「今から思えば、1970年の大阪万博も、大きな転機だったかもしれませんね」
　世界中から多くのスタッフが来日した万博会場では、阪急が社員食堂等の営業を任された。そのため、各国のシェフから本場の味を伝授される機会にも恵まれ、料理のレベルも格段に進歩したという。

　海外が身近な存在になり、各国の本格的な料理に人々の嗜好が移るにつれ、デパートの大食堂は「洋食の大衆化」という使命から解放されていく。それは、日本の食生活が、単なる洋食化から次の段階の多様化、国際化へと移行したことの象徴でもある。現在の各百貨店大食堂のハンバーグ、お子様ランチ、カレーライス、オムライス、親子丼、ちらしずし、ラーメンといった定番メニューは、ことさら「和」「洋」「中」と意識されることもない。その意味で、近代以降の日本人の食生活は洋食化（近代化）を経てグローバル化へと向かっているといえよう。

　平成７年に「レトロ＆ニュー」というコンセプトで改装された、現在のうめだ阪急８階の食堂街全体をみれば、多様化・国際化をした日本の食のありようが見事に集約されている。大食堂は最盛期よりも規模が縮小されたものの、百貨店のシンボルとして親子３代４代と愛され続け、一方で顧客のニーズに応えるために、食堂街にはさまざまなジャンルの店が設けられているのである。

◆現在の洋食メニュー
阪急ランチカレーライスハヤシライスビーフカツハンバーグ海老フライカキフライ海老ステーキオムライスお子様ランチ生ビール中ジョッキ一合酒	1100円 750円 750円 1050円 980円 950円 980円 1200円 870円 800円 820円 460円
ハンバーグやお子様ランチは昭和20年代に登場。現在の品揃えは洋食27品目、和食15品目、中華4品目となっている。

◆昭和10年頃のメニュー
ランチライスカレービフテキカツレツポークチャップコロッケフライハムサラダオムレツ生ビール大コップ一合酒国産ウイスキー	30銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭 20銭
この当時、酒は高級品であったことがうかがえるが、全メニューの中で酒の占める割合は意外と高い。そのほかに果物、プリン、アイスクリームが10銭、パン、ライス、飲み物が5銭。ちなみに、その頃の映画館の入場料が50銭だった。

vol.１　日本最大のハイカラ食堂誕生

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