【第1回】水野義之+平川秀幸

(その3)グローバル化と伝統
平川:
実は京都に国土問題研究会というのがありまして、これは京大の土木系の先生たちが昔からやっている団体で、地域の住民からいろんな相談を受けて、例えば裁判があればその証人に立つとか、代りに調査をするとか、そういうサービスをやっているグループなんです。
坂本:
それは有償サービスですか?
平川:
ほとんど無償だったと思います。
坂本:
とするとボランティアということですね?
平川:
ええ、京大の工学部とか防災研究所とか、OBの人たちが中心にやってます。この活動は昔からあったものです。そういうところから、ここに来ると何かの役に立てるだろうとか、いろんな繋がりや広がりが生まれそうだということを期待して京都に来る人たちは多いと思いますよ。他の地域に比べると可能性は大きいでしょうね。
水野:
学生たちに聞いてみると、大学を選ぶ基準は町の名前と偏差値。それだけという人が多いという噂もある(笑)。まず京都に来たいから京都の大学を、というところですかね。それにしてはさっき坂本さんが指摘したように、行政があまり地域性のメリットを活かそうとしていないんじゃないかな。
坂本:
そう、行政を巻き込んだ研究者や市民のネットワークが、本当にこれから形成され、発展していくんだろうかという懸念があります。
水野:
僕は外国が長かったので、自分の土着性とか地域性がだんだん判らなくなっているところがあります。実はフランスにいたときも、ある小さい村の自治会の役員になってたんです。どうせ自分がいるんだったら日本でも外国でも関係なしに、自分がいるところを少しでも良くしたいっていう気持ちがあった。つまりずっと外国にいる場合、自分の生まれた場所に執着していてもどうしようもないわけです。それなら自分がいろいろなところを転々とせざるを得ないとき、たまたまそこにいるのかも知れないけど、その自分がいるところをなんとかしたい。そう思うわけですよ。都市化が進むことによって土着性というものはだんだん失われていくんですよね。そういう立場でものを考えなきゃいけない人たちが、世界的な傾向としてどんどん増えているはずです。
坂本:
グローバル化ということと伝統を守ることとが、矛盾するような意味に使われるケースが多いようですが、その両立をいかに上手くやっていくかが課題ですね。
水野:
そう、それが課題です。専門性などによってあまりにも再編成され過ぎてしまった社会に対して、地域性という座標軸をどうやって入れていくか、自分としてそれにどう関わるかということが、日本中で問われていることだと思います。その観点からすると、みなさんもっと京都の街に対する重要性を感じて欲しいですね。
坂本:
しかし画一的なやり方で行政を進められる限り、街にはだんだん魅力がなくなっていくように思います。例えば近年の祇園町の悪い意味での変貌ぶりには、そこに「こういう街にしたい」という行政の思いがあるとは言い難いですね。高さ制限でもそうでしょう。京都の中心地にあった大学が、どんどん他の場所に移転しているのも、「学生の街をどうするのか」というしっかりした考えを持ずに、画一的でしかなかった行政の結果でしょう。一口に観光都市といっても、観光は観光でどこを中心に守っていくべきかをしっかり考えると、祇園町の電柱を地下に埋めようという昨今の動きなんかは、もっと早く出てきて然るべきですよね。その点、海外などはどこにでも旧市街地と呼ばれる場所があって、歴史的景観がきれいに残ってる。
水野:
ポーランドなんかには、市街戦で非常に破壊されたところがあったんですよ。例えばワルシャワもそうです。だけどポーランドの旧市街というのは、市民が破壊されたレンガの1個1個を集めて、再建させるような市民活動がありました。そこまでやったのかということを、僕は思いましたね。日本だったら、破壊されたらされたで、何か新しいものを造るじゃないですか。
平川:
この間国際会議があった、ベルギーのルーバンという街でも、全体が昔の街並みを残してて本当にきれいなんです。中世のころからある、端から端まで40分ぐらいで歩けるくらい小ぢんまりした、古い街でしてね。ルーバン・カソリック大学も15世紀くらいにできたものだし、他にはいわゆる「ベルギービール」のあるビールの街なんですね。そこを歩いていると、まったく近代的なビルがないんですよ。心地いい。しかし外見は古いビルなんですが、実は中はきれいな現代風になってる。ああいうやり方がヨーロッパって巧いですね。
坂本:
京都も「ここだけ」という場所を巧く残して、あとは開放していくようなやり方を採らないと、却ってどっちつかずの住みにくいものになってしまいますよね。

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