【第1回】水野義之+平川秀幸

(その1)研究者の地域貢献がまだ見えてこない
坂本: 「いい大学がたくさんあるからいい街だ」という意識が京都の人たちにはありますが、「本当に行政もそのように動いていて、結果として学生に居心地のいい街になってるのか?」という疑念を、僕は個人的にかなり持っています。「観光の街・学生の街」というキャッチフレーズに見合う動きが、民間なり行政なりからちゃんと出てこないといけないでしょうね。そのあたり、たとえば学術研究者の京都の環境に対する貢献はどうなんでしょう?
水野: 京都というと世界的に知らない人はいないので、国際会議をやったりしますよね。例えば、三年ほど前には地球温暖化についての国際会議を京都でやった。ああいうふうに外国からの研究者も多く訪れる。「京都プロトコル(京都議定書)」ということで後々の会議に引用されたりする。環境問題は非常に難しいんだけど、そういうシンボリックな意味で京都が果たす役割って、もっと何かあるような気がします
平川: 京都と滋賀は、環境の方面で企業や自治体が力を入れている、というのを京都に来る前にテレビとか新聞でよく見かけましたね。そのあたり、こっちに引っ越してきてからまだ1年しか経ってないんで、なかなか本当の姿が見えません。
坂本: 今、企業が目指している環境問題は4Rとか5Rとか、そういうところばかりですけど、それはゴミを出さないという原点がある。もう一つはリサイクルという点で、最初から分別をしておかないと非常につらい現実がありますね。ごみの分別収集とか、京都はそういうことに関しては非常に遅れてます。
平川: そうですね、こっちに来て最初にそれを感じましたね。あ、分別しなくてもいいのかって。
坂本: 企業はたとえば容器リサイクル法とか、そういった法令にしばられますから、分別するしないの以前に「企業として」どうするかという問題があって、少しずつではあるけど進んでいるのだと思います。そんなに取り組みは悪くない。しかし「京都の大学の先生が行政と何かした」というようなことが、残念ながらあまり見えてこないですね。京都で、環境問題を前面に出してアピールしている有識者の方は、そんなにいないのではないかなと思うのですが。
水野: 1997年12月だったと思うのですが、地球温暖化国際会議があったときに僕は大阪大学にいたのですよ。要するに僕が現代社会学部というものに関係するだいぶ前の話なんですが、その時にちょうど京大の物理学研究所というところで、また別の国際会議があって、僕はそっちの方に行ってた。宝ケ池に行けば温暖会議に潜り込んだりできたんだろうけど。僕の参加したのは素粒子の内部構造に関する会議だったんですが、そこでいろいろな研究発表があって、例えば素粒子の内部構造の解析は非常に難しい世界で、それをちゃんと解こうと思うとコンピュータシミュレーションのテクニックを入れていろいろな発展がある。「そういう発展を地球環境のコンピュータシミュレーションに取り入れることができればなぁ」ということを、両方の国際会議を睨みながら僕は感じてたんですよ。つまり、いろいろな会議があっていろいろな研究が行われてるんだけれども、ある会議にあるテーマで同じ時期に同じ場所でこちらの研究者があちらへ行って研究交流みたいなことをやれば、たぶん問題解決に寄与するのではないか、そういうことを感じてました。大学の専門分野を突き進むことによって得られたことというのが、実は地球環境そのものについても使えるのではないかと。大学ではいろいろな専門性を追求していくのですが、その時にちょっと視点を変えれば、自分の研究が実はいろんなところにヒントとして使える面がたくさんあるんじゃないかなと感じました。
平川: 研究のリユースですよね。自分の業界で自分の研究として使うだけじゃなく、他の分野にね。
水野: そうそう。突き進んでいくと実はいろんなところに関係してしまう事実を、我々研究者はあまり意識できていないんじゃないかな。IPCCの報告書を見ると非常に多くの専門家が文書作成に寄与している。その点、どうも日本人の寄与の度合いは少なすぎる。我々がどの程度のことができているのかを考えると、やはりまだまだ。
平川: ドイツやデンマーク、イギリスあたりでは、研究者たちが地域の科学相談所という形でサイエンス・ショップを開いてまして、地域の人たちが「どうも最近、うちの周辺にゴミを捨てられてて、水は汚染されてないかどうか気になる。ちょっと調べて欲しい」とか「どの先生に聞いたらいいか」って相談に来ると、その大学にいる研究者で間に合うことはその大学で対応して、そうでなければ他の大学とか研究機関、あるいは企業、行政に対する「つなぎ役」をしています。そういうことをして自分たちの研究と同時に地域への貢献をやってる。元々はオランダで、1970年代くらいからこういうことが始まったんですね。やはりアメリカにも地域立脚型の研究があって、大学やNGOで、「地域の環境問題をどう解決するか」、「どういう時にどんな人を集めるか」、などをテーマに、人の繋がりと専門分野の繋がりを集めて問題解決する活動をやっています。1月にベルギーで国際会議がありまして、そういった様々な活動の国際的なネットワークを作ろうという主旨でした。
坂本: 日本にそういう活動はないのですか?
平川: 日本でどれくらいそういう活動が行われているか、実は調べてみようと思ってるんですよ。一番目の前にある研究課題のひとつなんです。日本でもいっぱいあると思うんですけど、それがまだ目に見えてない。例えば地元のある一部の人たちは知ってるんだけど、新しく来た人たちにはぜんぜん判らないとか、あるいはたまたま自分の家の近くにゴミ処理場ができるから関心をもったけど誰に相談したらいいか判らないとか、自然や社会も含めた科学に関する相談所みたいなものが、どうも見えてないんですよ。

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