世界中の様々な人々が京都で生活をしています。日本の中でも京都に住む外国人は、約55,000人、京都府民263万3千人のうち2.08%をしめ、割合では全国の第3位と数字からも外国人の多い町=京都がうかがえます。
 今回は、「京都に暮らす外国人から見た京都」と題して、株式会社アシスト 代表取締役ビル・トッテン ( Bill Totten )氏の特別コラムをご紹介いたします。

株式会社アシスト
代表取締役ビル・トッテン ( Bill Totten )氏

ビル・トッテン氏経歴
1941年 米カリフォルニア州に生まれる
1963年 カリフォルニア州立大学卒業
1963年 ロックウェル社(アポロ計画)勤務
1967年 システム・デベロップメント社(SDC)勤務
1969年 SDCに在籍しながら南カリフォルニア大学経済学博士号取得。同年、SDCの社員として日本の市場調査のため初来日。
1972年 株式会社アシスト設立、代表取締役となり、現在に至る。









 32年前、当時働いていた米国企業から市場調査を命じられたのが私の初めての日本体験であった。西洋人にありがちなニッポン幻想は、羽田に着いてすぐ打ち砕かれた。誰もキモノを着ていないし、人力車も走っていない。初めて見る東京の街並みは、雑然とはしていたものの、ロサンゼルスのそれとたいして違わなかった。そんな第一印象にもかかわらず、業務命令でやってきたこの日本に惹かれ、ついには米国の会社を辞めて再来日し、アシストというコンピュータ・パッケージソフトの販売会社を興して今日に至ったのも、日本人のいう「ご縁」があったからとしか言いようがない。こうして、私は人生の半分以上の時間を日本で暮らしたことになる。

 私の経営するアシストは、本社が東京にあり、さらに北海道から福岡まで全国11箇所に営業所がある。設立当初は私自身も東京の事務所を拠点としていたが、全国に営業所が増え、また90年代に入ってからはコンピュータの小型化、高性能化、そしてモバイルの進歩など、どこにいても仕事ができる環境が整備された。本業でもあるこのITのメリットを活かして、職住分離を実践しようと考えたとき、最初に思いついた転居先が家内の実家のある京都だった。

 京都の良さは、と聞かれれば、いくつも挙げられる。食べ物も地酒もおいしいし、空気が違う。星がきれいだ。東京に住んでいる頃も車を運転しなかったが、ここ京都では愛用のマウンテンバイクでどこへでも行ける。逆に車では行けない小道がたくさんある。自分の生活基盤であるその土地への愛着、というものを実感として初めて味わったのは京都に暮らすようになってからだ。

 しかし、愛着を持てば持つほど、近年の京都の変貌に憤りを覚えるようになった。約10年前、京都を訪れる観光客は約4千万人だったという。それが今では3千万人に減少した。だがそれも仕方がないだろう。誰が好き好んでコンビニやパチンコ店の立ち並ぶ街を見に来たいだろうか。

 京都は794年から1868年の王政復古までの約千年間、日本の首都だった。歴史を通じ蓄積された素晴らしい建築物や絵画、彫刻、庭園、歴史的遺産は、京都だけのものではなく、日本の豊かな文化を象徴するものだ。国宝の約20%、重要文化財の15%が京都にあり、ユネスコから17もの文化財が世界遺産に登録されている。京都は京都人だけのものではなく、世界の京都なのである。

 長い歴史の中で、戦乱や大火で壊滅的な打撃を被りながらもその度に再生されてきた京都が、今私の目の前で存亡の危機を迎えている。たしかに、そこに住む人にとっては便利になっているかもしれない。しかし、伝統的な古い家屋を壊し、味気のない雑居ビルを建ててコンビニが入れば、街の持つ伝統は急に安っぽいものとなる。

 何十年かたって、日本の他のどの街とも変わりなくなったこの地に、「京の都」という名のテーマパークが造られる日が来ないことを願うばかりである。

※株式会社アシスト ホームページURL
  http://www.ashisuto.co.jp/
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