日本各地では、それぞれの魅力を持つ伝統的な陶器が造られている。その中でも極めて特異な陶器が、「樂焼」である。樂焼の興り、造り方や焼き方、その伝統の受け継がれ方など、「樂焼」には多くの特殊性を見ることができる。 今より約450年前、織田信長が世を治めようとした時代に「樂焼」は「長次郎」という陶工によって始まった。そしてそれは、「千利休」という茶人により、利休が考える「侘茶」の思想を色濃く現わす「抹茶を飲む為の茶碗」として世の中に生み出された。
それ以来、「樂焼」は、長次郎を初代に持つ家系「樂家」に代々受け継がれ、現在15代目が当主となっている。長く続く樂家の伝統。面白いことに、樂家では、親から子に造り方や釉薬の調合などを一切教えない。先人の作品を写したり真似たりするのではなく、それぞれの代が初代長次郎や歴代と向き合い、オリジナルといえる己の作品を生み出すというところに、樂家樂焼の伝統と呼べる軸がある。14代覚入は、こう言い残している。「伝統とは踏襲ではない。己の時代を生き、己の世界を築き上げねばならない。」と。
また、樂焼はその焼き方も特殊である。鞴(ふいご)と呼ばれる木製の道具で風を起こし窯の温度を高め、窯に1碗入れては、真っ赤に燃えている中から引き出し、また1碗入れては引き出すといった、他に類を見ない焼成方法で焼かれている。
いつしか、その焼き方などが一人歩きし、少し形を変え国内や海外にも伝わり、「AMERICAN RAKU」などとして世界にも自由な広がりを見せている。 今回の展覧会では、初代長次郎の黒樂平茶碗『隠岐嶋』や3代道入の黒樂平茶碗『燕児』、9代了入の赤樂茶碗 古稀七十之内など、樂焼が持つ魅力を作品から感じて頂くと共に、実際に使われている窯道具なども展示し、見て触れて樂焼を読み解く展観となっている。