夜中の零時、窯に小さな火が灯る。
数時間、窯は茶碗を迎え入れる時をじっと待つ。
夜が明け太陽が顔を出し始めた頃、火は炎となり、窯は本格的に動き出す。
樂家の窯は、小さな炭窯。たった一碗、茶碗が入る。
一碗の為の窯。
茶碗は、窯の中で炎と手をとりあう。
そして頃合いを見定めた一瞬、茶碗は窯から引き出される。
また即座に、新たな一碗が窯に入る。
樂茶碗は、燃えさかる炎から引き出されることにより、土の柔らかさを残す。
それは、茶碗を手に取った時、柔らかく感じ、お抹茶を飲む時、茶碗から手に伝わる湯の熱さが和らぐ特性をも生み出している。
また茶碗のカタチにも特色があり、轆轤で造るのではなく、手捏ねという方法で茶碗を造る。
手の柔らかさをそのまま活かしているのだ。
そうした特徴もあり、他にも様々仕掛けがありますが、樂茶碗を手に取ると、暖かな、柔らかさやぬくもりを感じる。
さらに、茶碗には、造り手の想いや、所蔵者の想いも込められている。
亭主が客を想い、選び、そして出される茶碗。
茶碗には、相手を想う様々な気持ちが詰まっている。
今回の展覧会では、特にやわらかな、ぬくもりを感じられるような茶碗を選び、展観する。
昨今の時風の中、少しでも柔らかに、穏やかな気持ちになって頂ければ幸いである。