1927年、山口県に生まれた中野弘彦は京都で育ち、京都市立美術工芸学校(京都市立銅駝美術工芸高等学校)で日本画を学び、その後立命館大学、京都大学で哲学を専攻、ハイデガーやニーチェの思想に触れ、大きく影響を受ける。その後、中野は藤原定家や鴨長明、松尾芭蕉や種田山頭火など先人の遺した言葉を通して「無常」を主題に、自らの思想を絵画化し、現代における表現の可能性を試みてきた。
現代の日本画には、自己の絵画観を持たず、描写力や技術だけに頼る作品が数多く見られる。あらゆることが画一化され、自分の表現を失いかけている現代において、中野の作品はこれからの日本絵画を考えていく上で、一つの指標になるのではないだろうか。
画家にとって最も重要なことは、自己の絵画観の確立であるといえる。そして、中野弘彦の作品からは、「絵画とは何か」「人間とは何か」という問いを常に自問自答し、探し続けた軌跡がうかがえる。絵画における思想と造形の接点を追求し、ひたむきな生と死の根源を見つめようと、真摯に制作を続けた孤高の画家であった。
本展では、絶筆をはじめ、屏風など作品約40点を展覧。