●浄土宗の総本山 知恩院 |
東山、祇園、八坂から少し北に向かうと東大路通り沿いに「総本山知恩院」の立て札が見える。浄土宗を開いた法然上人が30年あまり、布教の拠点とした「吉永の草庵」が始まりになる。
上人入滅後、弟子が住居跡に御影堂を建て、時の帝より「華頂山知恩院大谷寺」の寺号を賜った。以来、上人の教えを伝える根本となる。
現在の寺観は江戸時代になって、浄土宗の教えに帰依した徳川家によって整えられた。大小106棟の建物からなっており、室町時代にかかる諸堂最古の勢至堂や、三門をはじめ、経蔵、御影堂、大方丈、小方丈、勅使門、大鐘楼、集会堂、大庫裡・小庫裡などはいずれも重要文化財となっている。
バス停を降りると正面に見えるのは黒門と呼ばれる門だが、実は総門に当たるのは、南側になる。「知恩院前」のバス停で降りるよりも、ひとつ手前の停留所で降りて北へ歩く方がわかりやすいかもしれない。総門をくぐり、ゆるやかな坂を上っていくと緑に包まれた大きな木造の門が視界いっぱいに広がる。三門と呼ばれるこの門は1619年に建てられたもので、現存する木造の門としては日本最大である。正面が約27m、高さ約24m。石段を登り近づいていくほどにその大きさ、貫禄に圧倒される。三門真下より見上げると、その細部の木組みに幾何学的なリズムと美しさがあり、大規模な中にある緻密な設計に当時の技術がうかがえる。
三門をくぐると正面に「男坂」と呼ばれる急勾配の石段をのぼり、境内へあがる。一段一段がかなりの高さで、女性ではサクサクと上ることは難しい。石段をのぼりきると、目の前に高い空と広い境内が広がる。その左手に法然上人の御影をまつる「御影堂」(大殿ともいう)がある。徳川家光によって建てられたもので、唐様式を取り入れてあり入母屋本瓦葺。瓦葺の屋根は檜皮葺のものとは違い、朝日や夕日に照らされてきらきらと光る姿は雄壮である。檜皮葺の屋根が女性らしく柔らかな印象を受けるのに対し、こちらはかなり男性的な印象を受ける。
陽に照らされた姿もいいのだが、意外とおすすめなのは雨に濡れた姿。瓦がぬれて光る様子も空気が凛と引き締まっていいものである。
境内で、暖かいお茶を飲みながらぼうっと座っていると神社とは違う落ち着きを感じる。御影堂から流れ聞こえてくる読経の声や鐘の音が、風や葉ずれの音、鳥の鳴き声と入り交じって時が経つのを忘れさせる。
知恩院と言えば大晦日のテレビでおなじみの「ゆく年くる年」で除夜の鐘を鳴らすことでも知られている。この大鐘楼は境内右側の奥の石段をさらに上ったところにある。一般の人は鐘をつくことはできないのだが、大晦日には重さ80tもある大鐘を僧侶が17人がかりでつく姿を見ることができる。当日は11時30分で境内に入れなくなるため、早めに来る方がよい。
寺を訪れた際に、ぜひチェックしてほしいのが「七不思議」。御影堂にある「左甚五郎の忘れ傘」や「大杓子」。その他には歩くとウグイスの鳴き声に似た音がする「鴬張りの廊下」や「抜け雀」など寺のあちこちに点在する。それぞれに逸話があり、職人のユーモアや宗教観を知ることができて楽しい。御影堂の奥にある、大方丈や庭園、誓至堂などは有料。
この日は、大掃除なのか年末の準備なのかタスキ姿の僧侶の姿も見られた。駐車場のわきに寒桜が春とは違い可憐な姿でちらほらと花を咲かせていた。 |