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■北さんのおばんざい!

四条河原町の賑わいも、この路地を入ると聞こえてこない。
こんな路地が、京都らしくて、なんとなくしっくりする。
目立たず、地元の人しか知らないような場所にある月村さん。
そもそも、「北さんの京都Oh!ばんざい」というタイトルは、
「京都は最高+おばんざい」を文字ったタイトルだったが、
今回は、まさにそんな狙い通りの紹介になりそうだ。
店はこじんまりとしていて
とても落ち着いた感じで、
北さんはいつものように
カウンター席に座った。
さてと、ここではどんな
”北スペ”を披露するのやら・・・・。
■北さんの注文

「北さん、今日は何にしますか?
ずいぶんたくさん一品がありますよ!」
「私はいつも決まっているんです。」
「たこやわらか煮、きずし、ぐじから揚げ、こいも・・
上の段はそういうとこですね・・・・。
下の段は、聖護院大根、かきの天ぷら・・・
そんなもんですね」
「昔ながらのしゅうまいは?」
「もちろん!」
「そして釜めしですか?」
「そうですね」
「釜めしは、何にしましょう?」
「もちろん!とりです!」
「ちがう釜めしも頼みましょうか?」
「・・・・とりですわ!」

取材的には、もう一品ぐらいと思ったんですが
北さん、頑固です。
■裏メニューの話

「それと、やっぱりはずせへんのが山賊焼!」と北さん。
これは品書きにはない。
どうも裏メニューのようだ。

それにしても・・・・注文の数が多いぞ!
今日は撮影に、いつもの北住くんが同行だが
あいにく、体調が悪く腹具合が悪いようだ。
覚悟して今回は挑まねばならない!

最初の”えび芋煮”が出てきた。

■35年の素人?

えび芋というと京都の名物野菜。
”いもぼう”はあまりに有名だが
ここでは、にしんと炊いてある。
あっさりしていい味加減だ。

ご主人にお話を聞いた。すると
「勘弁してください!基礎がありまへんから
見よう見真似で、思い当たりばったりですから・・・」
とずいぶん控えめだ。
でも聞けば、なんと料理人になって35年だそうだ。
それでも「自分は素人ですから」とあくまで控えめだ。

「私は、ここで味付けを教えてもらって家で料理するんです」
ということは、ご主人は、北さんの先生だ。

ただ、さすがの北さんでも、
釜めしの出汁だけは教えてもらえない。
 
■昔の話

「僕が来たときは、おばあちゃんがいたはったから
何年ぐらいになりますかね?」と北さん。
「いつ頃ですやろね」と女将さん。
「確か学生の頃だったと思いますよ」
「そうしたら、もう35年ほど前のことですね」

たこがやわらかい!
そして”きずし”と”こいも”を食べながら
私は話しに聞き入った。

「ここを始めたのはおばあちゃんです。
どうしても、自分で包丁を持って料理をする
おばんざいの店をやりたかったそうです。
ご覧の通りの小さい店ですから、
ずいぶん苦労もしたんです。
私で三代目になるんですが、
実はお嫁に行って一時は出たんです。
店を閉めることになり、
おばあちゃんは寂しかったと思います。

そんなときに、主人がやると言ってくれたんです。
おばあちゃんはうれしかったと思いますねん・・・」
と女将さん。

そんな訳で創業50年の月村の味は、
おばあちゃんから今のご主人に受け継がれた。
■映画人の話

”しゅうまい”と”釜めし”は創業当時からのメニューで
50年の歴史がある。
そして、そのしゅうまいには意外な話があった。
京都は日本映画発祥の地として知られているが、
日本映画の父と呼ばれた牧野省三さんの息子さんたちが
おばあちゃんの心意気に共感して応援をしてくれたらしい。
当時、京都に映画人が集まる会議で、
なんと、3000人分のしゅうまいを納めたこともあったそうだ。

映画人の愛したおばあちゃんの味・・・。
”昔ながらのしゅうまい”と”釜めし”の味だけではなく
昔ながらの人情が、ここ月村さんには今も残っているんだろう。
今でも月村さんに映画関係者が訪れる所以である。

・・・・ぐじの唐揚げは、パリパリしておいしい。

「若いころは東映の子役さんをやっていたんでしょ」と北さん。
「東映さんの人たちの出入りが多かったんで
適当な子供がいるいうことで出ただけですわ。
中学ぐらいまで、ちょこちょこと出てましたけど
私は、あんまりそいうのは苦手でしたんです・・・」
と恥ずかしそう。
女将さん、今もとても綺麗ですが、
若い頃はさぞ美しかったことでしょう!

・・・・大根にしっかり味がしみている。
・・・・かきの天ぷらは塩でいただいた。

私は出されたのもを食べながら話にのめりこんだ。
■顔師の話

「ところでご主人の以前の仕事知ってます?」と北さん。
「いいえ、解りません。サラリーマンですか?」
私はなんと発想のない答えをしたのかと恥じた。

「顔師ですわ」と女将さん。
「顔師?」
「花街では、”おしろいやさん”といいますね」と北さん。
なんと艶っぽい仕事なんだろう。

「普段、舞妓ちゃんや芸奴さんは自分で化粧しますが
舞台とかの大事なときは、プロの顔師に頼むんです。
そうすると1日化粧くずれしないそうですよ!」と北さん。
さすが北さん、花街には詳しい。

「お二人の馴れ初めは、さぞロマンチックだったんでしょうね?」
「そんな粋なもんとちがいます・・・・」と笑って
女将さん店の方へ行ってしまった。
かきの天ぷら
ご主人と女将さん
  ■山賊焼

忙しい時は、ゆっくり料理ができないので
裏メニューとして存在する”山賊焼”が
私たちの前に出され、その香ばしい香りに
私は、ふと正気に戻った。

しばらく、まるで、別の世界にいたようだ。
映画なら、紗の掛かったワンシーンだ。
これは京都でしか味わえない話だ!

さて、この裏メニューの山賊焼、
誰がこの”パリパリの皮”を食べるかで争う代物です。

是非、店がゆっくりしている時に頼んで見てください。
あなたの運が良ければ味わえます。
そして、納得します。

■もつ焼き

「最近”もつ焼”ないですね」と北さん。
「いえありますよ!」とご主人。
「僕はあまり、もつは強くないんですが
これも裏メニューです。頼みましょう」と北さん。

ほんとに困った人です。北住くんの腹痛で
今日は食べるのが私ひとりだと知っての犯行だ。
最後のとり釜めしまで、もう一息だというのに・・・

私は、添えてあった北さんの大嫌いなトマトを
こっそり、できるだけ北さんに近づけて
バター風味のもつ焼きを食べた。
山賊焼き
もつ焼き
■とり釜めし

さあ!待ちに待った釜めしの登場だ。
しっとりと炊き上がったごはんに、とりの脂がからんで
美味しい!これが北さんも知らない秘伝の味か!
炊いたお釜から、直接竹のおしゃもじで
熱々をフーフーしながら食べる。
これがまたいい!そして、おこげも最高!

「こないしてお客さんが来てくれはって
美味しい言うて食べてくれはると
おばあちゃんが喜んでるやろなと思てます」と女将さん。

北さんおすすめ、月村のおばあちゃんの味!でした。
取材を終えて・・・
今回、お二人のお話が興味深かったので
あまり料理の紹介ができなかった。
北さんのおすすめをもう少し紹介しておきます。
夏場は子鮎の天ぷら。北さんの奥さんの好きな、貝柱のバター焼き。

最後に、月村さんの娘さんの話もつけます。
米倉涼子さん似とか、ヘプバーン似とか
お客さんに言われるそうですが
私は、エリザベス テーラーに似ていると思います。


さて次回は、
北さんのお友達、飯星景子さんも登場する特別篇。
題して「北さんのプチ旅行」。 お楽しみに!


文)八田 雅哉  写真)北住 邦彦

 
エリザベス テーラー似の娘さん作 『釜飯の釜』