花見小路は電柱と電線がなくなって、随分とすっきりした。やはり有数の観光地なのだから、こうでなくては風情がないというものだ。 「このあたりは、いつも撮影ではお世話になっている場所ですね!北さん」 きょろきょろしながら私たちは 『なか一』さんへ向かった。 「もうだいぶ前になりますが、『なか一』さんへは 一度一緒に行ってますよ!」と北さん。 この「だいぶ」というのはもう10年以上前のことで、北さんと仕事を始めた頃のことだ。そう言われると、確かに美味しい寿司をいただいた記憶がある。 しかし、『なか一』さんの店の前に着いても、なぜか記憶は鮮明に戻らない。それもそのはず、お店は少し東へ移転して新しくなっていた。 |
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中に入ると、舞妓ちゃんや芸奴さんの うちわがたくさん飾ってある。 祇園らしいな! ご飯食べなんかでよく来るんだろうな・・・・ もちろん祇園で彼女らの姿を見るのは めずらしくはないが、細い路地から現れて、 また細い路地へ消えていく姿を見かけたりすると 私はいつも幻に出逢ったような想いになる。 店内はカウンター席が中心だが、 二つのテーブル席とお座敷もある。 2階の部屋では10名ほどの宴会も可能だそうだ。 |
もちろんここにも北さんの指定席がある。 入り口近くのカウンターの角の席がそうらしい。 ここで20年来の友人であるご主人・須原陽一さんと 話をしながら食事をするのが北さんの贅沢のようだ。 北さんは、ご主人を「陽ちゃん」と呼ぶ仲。 年齢も同じで、幼馴染のような関係だと言う。 では北さんは「トシちゃん」と呼ばれているのかというと、なんだか曖昧で、そうでもないらしい。 この日私たちの相手をしてくださったのは 二代目の健太さん。 ご覧のようになかなかの好青年! |
■先付 じゅんさい梅肉・蓮根寿司・川エビ・ゴリ・ ウニとオクラのゼリー寄せ ■造り スズキ・トロ・車海老・かぼちゃけん・タデ・ワサビ この日は北さんおすすめのコースでスタート。 最初にご覧ような先付けとお造りをいただいた。 ひとつひとつの品と演出に、繊細な心づかいを感じる。 さあ!今回も「愉しみ」のスタートだ! 北さんはいつも、取材の前に料理の注文を済ませておいてくれる。 私は黙ってそれをいただくだけという段取り。 いや、これがこの企画(取材)の最も重要なところだ。 そもそもこの企画の出発点は、私自身が美味しいものを食べたいという、身勝手な発想からだった。 動機が不純な点では少し後ろめたさもあるが、 こうして皆さんに紹介することで、それもキレイサッパリ洗い流されて、私の心には、なんと満足感や幸福感だけが残るではないか。 実にすばらしい企み(愉しみ)だ。 |
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■しまあじのくんせい ■吸物 鱧・松茸・白ウリ・柚・梅肉 お・・・。 未知の食べものが出てきた。 戸惑う私を見て、北さんは得意そうな表情。 どうやら「これは?」と聞くのを待ち構えているようだ。 「北さん、これは?」 「しまあじのくんせいです」 「どうです、おいしいでしょ!」 と北さん得意そうな表情。 なるほど!・・・これはなかなかの珍味。 お酒の肴にとてもいい。 と言っても下戸の私は、 杯の端を舐めただけでもうイケマセン。スミマセン。 続いて出てきたのは「吸い物」・・・・。 ハモと松茸入り。 いよいよなか一さんの本領発揮か。 よくのったハモの脂が旨そうに浮き上がっていて、 さっぱりと上品な出汁や、松茸の気品ある香りと 良くマッチする。 厳選された素材だけが見せる、深い味わいだ。 「この取り合わせはやっぱり最高ですね!」 と北さんご満悦。 まったくその通り。 ハモのいちばん旨い時期は夏から秋。 松茸はご存知のとおり秋の味覚の代表だ。 ハモの時期を選ぶか、それとも松茸の時期を選ぶか? これは難しい選択かも知れないなぁ。 |
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しまあじのくんせい | ||||
吸物 鱧・松茸・白ウリ・柚・梅肉 |
■鮎の風干し 健太さんは手際よく私たちに料理を出してくれている。 北さんはご主人「陽ちゃん」と 何やら京都のうまいもんの話。 どこの店の何がいいとか・・・なんとか・・・。 互いの情報交換で話は尽きないようだ。 北さんの情報源は、実はこの店にあるのかも知れないとぼんやり考える。 さて次にでてきたのは「鮎の風干し」。 これは、店にいつもある料理ではない。北さんがあらかじめ頼んでおいてくれた一品だ。常連、北さんと一緒だからこそ味わえるありがたい品。 この季節、鮎の塩焼きが常道なんだろうが、これはまた違った贅沢な鮎のいただき方。 鮎は「香魚」と書くくらいで、品のある香りが楽しい魚だ。 「これいいですね、北さん!」 「いいでしょ!」 北さん、自慢気に目を細める。 |
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鮎の風干し |
■ハモずし さあいよいよ、北さんおすすめの「ハモずし」の登場。 「どうです!」 「ハモがしっかりしてるでしょ!!」 「甘くないタレがいいでしょ!!!」 ハイ!・・・・おっしゃるとおりです。 骨切りしたハモの程良い存在感と、 くどくない味付けは逸品。 豊潤。 北さんはなぜか、二切れのハモずしのひとつに手をつけない。どうやら一切れを密かにとっておいて後で食べようという、子供じみた作戦なのか? 私は北さんが万感胸に迫って ボンヤリしているあいだに、 すかさず大切な一切れを奪い取って食べてしまった。 私たちの業界では早メシは当たり前。最後に美味しいものを頂こうなんてまだ北さんも修行が足りないな! 回りに神経を配り、先を読む!撮影の現場では特に重要な能力だ。 北さん!油断は禁物ですぞ! ※本当は、北さんが食い意地のはった私にくれたんです。 ■ハモ焼きしも 真打登場の後に、続いたのが、ハモの焼しも。 香ばしさがなんといっても美味ですが ハモずしの後での、このいただき方が洒落ている。 参った! |
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ハモずし | ||||
ハモ焼きしも |
■寿司 いわし・穴子のにぎりと寿司看板の組合せ えー。ここはお寿司屋さんです。 少しは握りをいただかないと悔いが残りそうです。 「北さん何がいいですか?」 「いわしとアナゴを食べてみてください」 「いわし・・・ですか」 「そう。いわしとアナゴ」 「じゃ、いわしとアナゴ頼みます」 「・・・・・・、北さん!」 「なんですか」 「ホンマに美味しいわ」 なか一の握りは、口の中でみごとにとろけた! こんな旨いお店と親しい関係とは・・・・ 北さん、本当にうらやましい限りです! |
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寿司 いわし・穴子のにぎりと寿司看板の組合せ |
あとがき | ||
北さんの定期検診の結果が悪かった時のことです。 「今生の別れ・・」と随分と回りを騒がせた時がありました。 なか一さんでも、ご主人と最後の記念写真を撮ったそうです。 それから、かれこれ2年近くになるんですが、 こうして今一緒にこの取材を楽しくしています。 番組などのコーディネートも以前に増して“味”がでているようです。 あちら側に行くには、あまりに荷物が多すぎますよ。北さん! さあ!次はどこへ行きましょうか? 次回は、 木屋町「露庵 菊乃井」さんを紹介してくれるそうです。 何がいただけますか?どうぞお楽しみに! ※このシリーズは料理の解説をするものではありませんし、専門的なものでもありません。 食べ物の好みは、人ぞれぞれだと思っています。どうぞご自身でご賞味ください。 文と写真)八田雅哉 |
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京都のグルメ「食べる」
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京都のグルメ「呑む」