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新丸太町通りを西につきあたると 嵯峨の閑静な住宅地。 今回訪れたお店は嵯峨釈迦堂の西側にあった。暖簾が掛かっていなければ、 それがお店だと判断もつかない。


この日は、北さんが募った会食のメンバーとご一緒。
そのメンバーはというと・・・
日本人で最初にエベレストに登られたMさん
北さんの美味しいモノの情報源でもあるYさん
上七軒のおかあさん、Iさん
青果販売会社の社長さん、自称八百屋のTさん
いずれの面々も食に関しては筋金入りの方々と
お見受けした。
お店の中は、奥座敷と手前の部屋の二間。
その奥座敷には、6つの座布団が敷かれていて
床の間には、掛け軸とご主人自らいけられた茶花。
これ以上なにも必要のない、とても清楚なしつらえです。
でも、これから何かが始まるような張り詰めた緊張感も感じます。


さて、今回の北さんのここでのオススメの一品は
嵯峨一久さんの「筏(いかだ)ごぼう」。
私は、精進料理をしっかりといただくのは初めてで、
とても楽しみだ。
でも、紹介するのが一品ではあまりにもったいないと思うので今回は、出てきたすべての料理をご紹介することにする 。
18:30会食スタート!
「うまい酒が入りましたんでどうです」
とご主人の津田さん。 口当たりが実にいい。
何でも東京のお客さんが送ってくださったそうで
「こだわりの者と人」が全国からここ嵯峨野へ
集まっているようだ。

■向付:たけのこの木の芽和え
最初の一品。
上七軒のおかあさん「木の芽の香りがいいですね」
情報源のYさん「よくまとわりつくね。
これいいね、木の芽のあたる面積が違う」
最初から難解な言葉が飛び出した。
「これはえらい席についたぞ」
というのが私の正直な感想。
たけのこの木の芽和え

胡麻豆腐


■胡麻豆腐
次は、「胡麻豆腐」・・・モチモチ感がとてもいい。
津田さん「一度でも冷蔵庫に入れると
硬たくなってだめなんです」
Yさん「硬いのがあるからね、
足の上に落とすと怪我するようなやつが・・」
全員・・・???
Yさん「それにしても、わさびの量が半端じゃないな・・・」
おかあさん「横へよけたら、よろしいやん」
北さん「いつもこれぐらい出るんですが、
僕もそうしてます」
確かにわさびの量はご覧のように半端じゃなかった。
ヒィー!
ここでYさん「わさびたっぷりで、
侘び(わび)と寂び(さび)がたっぷりあるね」
なるほど・・・。


■煮物:たけのこ 揚げゆば ふき 木の芽
北さん「Mさんは日本人で最初にエベレストに登られた人です」
Mさん「1970年万博の年でした」
Tさん「当時の登山というのは、危険だったんでしょうね?」
Mさん「はい、何人か亡くなりましたね・・・」
Mさん「今は、天候のいい5月下旬なら、前から引っ張る、後ろから押すといった状態です。 随分登山も観光化 してしまって、お金さえ出せば登らせてくれるんですよ」

そんな会話が進む中、煮物がでてきた。
北さん「精進ではこれがメインになるんですよね」
おかあさん「懐石でもお椀ものがそうなんですけど精進料理はなんといってもお昆布だけのダシやから」
「う~ん」、「う~ん」各人うなづきながら食しています。


煮物:たけのこ 揚げゆば ふき 木の芽

揚物:筏(いかだ)ごぼう
■揚物:筏(いかだ)ごぼう
襖を隔てた調理場からごま油のいい香りがしてきた。
さあ!北さんオススメの「筏ごぼう」の登場。
Tさん「いつも野菜を売ってはいますが、
このように野菜をいただく機会があまりないんです」
「う~ん、ごぼうがもう、ごぼうでないですね。
別のもののようです」
しばらくごぼうについて八百屋のTさんの解説があり、他の人もそれに加わる。
随分と下ごしらえをしたごぼうを、筏のようにしてごま油で揚げてある。
中のごぼうはとても柔らかくて、Tさんのおっしゃるようにごぼうではないような感触です。
それに、この筏ごぼう、初めて出会う味です。

ともかく、北さんはこの「筏ごぼう」が大好物のようです。
順々に出される流れる中で、この一品は実に変化があっていい具合だ。

■煮しめ:たけのこ 大徳寺麩 わらび
独活 はじかみ さくら麩 擬製豆腐 ゆば
これには食べる順番があるんだろうか?
Yさん「自分の所有物になったら好きにすればいいんです。どれから食べようかと迷う楽しみがまたいいんですよ」

ここから話が広がって、お弁当の話、味付けの話、
やがてフランス料理へと進んで世界展開。
残念ながらこの部分少々長いので割愛。


煮しめ:たけのこ 大徳寺麩 わらび 独活 はじかみ
さくら麩 擬製豆腐 ゆば


■八寸:ゆべし 岩たけ ゆばしんじょ 木の芽味噌 
「このゆべし、2年ものですねん」と
料理を持ってきてくださった津田さんの話が始まる。

※ゆべし(柚餅子)を広辞苑で調べると、
米粉・小麦粉・砂糖・味噌・くるみなどをまぜ、
柚(ゆず)の果汁や皮を加えて、こねて蒸した菓子・・・
とある。

嵯峨一久さんのゆべしはなかなか濃厚な味だ。
飲める人なら、絶好のおつまみになるだろう。
飲めない人でも、熱いお茶と一緒にいただけば
また格別。
「これは徳島の柚です。柚は徳島ですな」
「みかんは愛媛がいいです」と津田さんは言い切る。
ここでまた、八百屋のTさんを中心に日本の柑橘類の話へ進む・・・
私は、前回のリドルさんの八朔ジュースを思い出した。
北さんはそっと私の方においしい料理をまわしてくれる。
くいしんぼの私を良く知ってか、そこそこお腹がいっぱいなのかは別として精進料理というと、帰ってから少し お茶漬けでも食べないといけないような 量的に物足りないイメージをもっていたものだから 北さんのこの心遣いに少し感動。
「お漬けもの楽しみにしてます」と北さんは津田さんに声をかける。
「皆さん、おつけもん(お漬物)のスペース空けといてくださいね」と北さん。
どういう意味だろうか?何んだか妙な感じだ。

■茶碗:かやく麩 あんかけ 針しょうが
ご覧いただいてるこの一品も、実に調和の取れた味加減。 あんかけのかやく麩もしっかり量があって、お腹のほ うもかなり膨れる。
心遣いというか、私は、まんまと北さんの術中にはまったようだ。
最後のおつけもんまで到達できるか?
少し心配になってきたが、私は今、日本を代表するアルピニストと同席しているわけだから、 頂上を目前にして 断念するわけにはいかない。
ここが正念場、踏ん張りどころと気を引き締める。
そんな私の覚悟も気にせず、おいしんぼの面々は、「しょうが」の話で盛り上がっている。
確かに、添えてあった生姜は、その下のあんと中味に絶妙な絡み方をしていた。

八寸:ゆべし 岩たけ ゆばしんじょ 木の芽味噌

汁:白味噌仕立て ちくわどうふ 
庄内麩 みつば

飯:豆ご飯
■汁:白味噌仕立て ちくわどうふ 庄内麩 みつば
■飯:豆ご飯
■香の物:大根 赤かぶ なすびの粕漬け しば漬け
いよいよ、北さんの楽しみにしていた
おつけもんが登場・・・・
「いくらおいしいもん食べても、最後におつけもんを食べんと、食べた気がしません。 そやから、おつけもんはたっぷ りとないとあきまへん」と津田さん。
「ご飯の量を気にしながら食べるようなおつけもんの出し方ではないんです、 ここは」と北さん。
「日本人はメシと漬物のうまいのがあればいいんです」とさらに津田さん。
豆ご飯とおつけもんのシンプルな取り合わせが、またサッパリとしていい。ご飯は粥(京都では「おかいさん」 と言う)のように炊き上がっているのでお腹にすっと入る。
私も、おつけもんのそれぞれを贅沢に味わいながら美味しくいただいた。

湯桶
■湯桶
■菓子:桜きんとんと抹茶
おこげご飯の入ったこの最後のお茶漬けも
香ばしい味で最高だ。
これは、お釜で炊いたときにできるおこげだ。
懐かしい・・・。
私は、おくどさんでご飯を炊いていた
母親や祖母の姿を思いだした。
結局、私はこのお茶漬けを2杯いただいた。
さて皆さんはというと・・・
Mさんは、エベレスト登頂を果たしたような
達成感のある表情。
Yさんは、また新しい世界を発見したような面持ち。
Tさんは、食の奥深さに改めて感心したご様子。



菓子:
桜きんとんと抹茶
嵯峨一久さんは、すべて予約が必要なんですね・・・
「作り置きはありませんねん。予約のお客さんのためだけにつくります」
嵯峨一久さんの歴史は400年とのことですが・・・
「店の歴史なんかは関係あらしません。今がすべてですわ。自分がうまいと思うものをつくる、それを当たり前にやっ ているだけです」
とご主人の津田さん。
・・・・謙虚な姿勢に言葉を失った。
この会食、結局3時間に及び
北さんは「もう食べられへん」と満足そうに食事を終えた。

さて今回の取材はこのあたりで御開きとしよう。
そして今回は、このような実況中継でご勘弁願いたい。
私も、満腹で何も考えられない状況なので。

さて次回は、プチレストランないとうさんです。
どうぞお楽しみに!

 

上七軒のおかあさんの言葉です。
「女の泣く料理はおいしいんですよ!つくる人がつらい思いをするもんほどおいしいんです」
大切な人のために手間を惜しまず、ということなのでしょうか。
嵯峨一久さんでいただいたのは、まさにそんな手間と愛情のこもった料理でした。


※このシリーズは料理の解説をするもではありませんし、専門的なものでもありません。
 食べ物の好みは、人ぞれぞれだと思っています。どうぞご自身でご賞味ください。


(文と写真)八田雅哉