北山通りと下鴨本通りの交差点を西へ少し行った北側の ビルの2階に北山権兵衛さんはあります。 「さあ!北さん行きましょうか」 「一緒に行ける人がいたらどうですか?」 と事務所を出るときに北さんがスタッフに声をかけてくれた。 毎回、「うまかった!うまかった!」と聞かされるだけで、 「話だけではなく連れて行ってくださいよ!」と最近空気が悪い。 もちろん可能なら誰もが同行したいと思っている。 さて、今回は、そば好きの私のリクエストもあって、 北さんが北山「権兵衛」さんを紹介してくれることになった。 ここは、北さんが毎月楽しみにしているメニューのあるお店だ。 |
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北山店外観 | ||||
今回、撮影にお付き合いいただいたのは、 若主人の味舌秀人さん。 名刺をもらって、まず名字が読めなかった。 味の舌→あじしたさん? 「"ました"です。よろしくお願いします」 おじいさんの代からの創業で、秀人さんで3代目。 お父さんの味舌正二郎さんは、今も現役です。 秀人さんも東京で修行して、京都で頑張っておられます。 それにしても、料理人として、天命のような名前だな・・・・。 今日は期待できるぞ! |
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若主人の味舌秀人さん | ||||
「まずは、季節の御蕎麦とごはん・・・でしょ」 「それに、しっぽく、でしょ・・・」 「鍋焼き・・・もはずせないしね!・・・・」 おいおい、誰がそんな食べるの? 「それとね!」・・・いつもの北さんの口癖が出たぞ! 「メニューには載ってないんですが」 ・・・・また裏メニューだ! 「細目ざるうどんも食べてみてください」 夏季限定のものらしいが特別に用意してもらうことになった。 「これに焼き鳥があうんですよ! 二人で頼むとちょうどいいんです」 ふたりで?相手は?誰と北さんは来ているの? 「これからのものでは、゛鴨せいろ"も入れたいな!」 「それと最後に、『なべ(炊なべ)』も是非!!」 ・・・・・・・・。 「そんなとこかな、じゃそれで!順番は任せますね」と北さん。 正気の沙汰ではないぞ! ゆっくり蕎麦を味わいたかったのに、 一体誰がそんなたくさん食べるの? 私の他には、撮影で同行したスタッフの北住くんと デジスタイルの担当者小林氏しかいないんですぞ! 不安を抱えながら、撮影と実食の慌しい取材が始まった。 |
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権兵衛2階店内 | |||
「これ、ええ出汁がでてるんですよ・・・」 と北さん 「どうして食べるんですか?」 「ここにつけてね、鴨を食べながら・・・・」 いい匂いがしてる! 「どうです?」 「これいいですよ!北さん」 関東では、ポピュラーなメニューだそうだが、 私は初めてです。 「鴨は結構よい出汁がでるんです。 濃厚な味になって蕎麦に合うでしょう」 と若主人の秀人さん。 「東京で修行して、京都に帰ってから 始めたメニューなんです」 麺は冷たくて、出汁は暖かい。 この取り合わせでも違和感なく食べられる。 「脂がのった鴨に、旬のねぎ、 これから美味しくなります」 と秀人さん。 これはいけます! 蕎麦を出汁にたっぷりとつけて召し上がれ! 北さんおすすめの一品です! |
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鴨せいろ¥1300(11月~2月頃:期間限定) | |||||
なぜ、しっぽく? 具沢山の長崎のしっぽく料理から そう呼ぶようになったそうだ。 関東では、おかめの面のように盛り付けることから 「おかめ」と呼ぶ。 『 しっぽく 』と『おかめ 』では ずいぶん違った印象がある・・・。 女性の店員さんに「おかめ」って注文するのは、 ちょっと度胸がいる。 さて、しっぽくは蕎麦の本道というか、定番だ。 それぞれの具に、ちゃんと存在感があって しっかりと味付けされている。 具のひとつひとつに、こだわりがしっかりと 伝わってくる。 ただのせただけではなくて、それぞれが美味しい。 それと、なんといっても出汁がいい。 |
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志っぽく¥950 |
「うどんは二枚腰ですね!」 「何ですか北さん、その二枚腰っていうのは」 私の得意な営業二枚舌ならわかるんですが・・・。 「讃岐はうどん自身の腰が味わいですよね、 でも僕はね、少しうどんが出汁を吸ったぐらいで 食べたいんです。でも、どろどろじゃ困ります」 この微妙な食感のあるうどんが北さんの 『二枚腰うどん』らしい。 なるほど、ここの゛鍋焼き"はいけますね。 少し値段がはりますがそれぞれの具が しっかりと存在感があって値打ちものです。 出汁が、北さん好みに麺に合体しているのもいい。 「半熟の卵を、少しつぶして全体に馴染ませて食べると いいですよ!」 北さん流、権兵衛鍋焼きうどんのいただき方です。 |
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鍋焼きうどん ¥2000 | |||
「月替わりで、いろいろな定食がいただけるんで毎月必ず来ます」 と北さん。 取材の10月は、゛きのこのかき揚げそば+くりごはん+かきなます" 「11月のゆばごはんも好きなんですよ!」 「3月のばら寿司もいいな、もう一度やってほしいな」 「メニューもずぼらしててね」と若主人の秀人さんが言った。 それもそのはず、96年の7月から北さんは通っているらしく 今までに食べたその月の献立が一覧表になって記録されています。 こんな人がお客ではお店の人もたまったものやない。 「12月のしゃけごはんもおいしいですよ・・・」 今日の北さんはテンションが高いぞ! |
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確かに、この日いただいた゛くりごはん"おいしかったです。 「季節のものが出せればいいなと思ってやっています」と秀人さん 季節を大切にしたこのメニューは本当におすすめです。 |
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季節の御蕎麦とごはん ¥1300 |
このあたりで、私と小林氏が担当する実食班に 負担がかかってきました。 撮影担当の北住くんは本業が忙しく、頼りになる状態では ありません。 残してなるものかとがんばるのですが、 汗かきの二人はかなりピークです。 「これもおいしいですよ」と鍋焼きを食べた後で小林氏。 しっかりした出汁が関東出身の小林氏には合うのだろう、 満足そうだ。 実食担当の二人は顔を見合わせて 「いいですね」を連発した。 |
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細目ざるうどん ¥900(5月~8月頃:季節限定) |
「これと焼き鳥が合うんですよ」と北さん。 「この組み合わせは二人で食べるんでしょ!」 「へへへっ・・・」 と北さんは、目が細くなったやさしい顔でにやりと笑った。 食い気だけでなく、しっかり色気もある北さんです! 「この焼き鳥もうまいっすよ」と汗をかきながら小林さん。 「さあ、次の『炊なべ』はどこで撮りましょうか?」と北住くん。 「次の炊なべは、ピチピチですよ」と秀人さん。 とうとうみんなエンジン全開状態になって 取材はいよいよクライマックスだ! |
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焼き鳥 ¥2300 |
炊なべの撮影には時間がかかった。 「この海老は熊本から取り寄せた天然ものです」と秀人さん。 位置を決めて撮ろうとすると、海老が桶から飛び出る。 元気な天然の海老だ。 またセッティングして、撮ろうとすると跳ねる。 なるほど、素材が生きている! 権兵衛さんの『炊なべ』というのは一般的な『うどんすき』のこと。 うどんすきは登録商標されているので、 ここでは『炊なべ』と命名している。 独自のこだわりと自信が感じられる。 |
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炊なべ ¥4800(2人前より) |
「元気な海老はさすがにうまい」と北住くん。 「穴子もおいしいですよ」と小林氏。 「菊菜食べてもいいですか」と北さん。 「このひろうすは自家製ですね!」 「そうです」 と、北さんの問いにさすがといった表情で秀人さん。 「来週また作りますので是非出来立てを 食べてくださいよ」 「いつです?」と北さん ・・・話は尽きない。 白菜は私の担当ですが、 実食班二人はさすがに追い込みがきかない。 ペース配分をわきまえて挑んだ北さんと、 運良く?撮影バタバタで食べ逃した北住くんの、 北北コンビは順調なペースで 最後まで完走(完食)した。 北さん、まだ注文したいものがあったにちがいない! 出掛けに、スタッフを誘った理由がやっとわかった。 |
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住所:京都市左京区下鴨南芝町43~5 電話:075~791~4534 営業時間:午前11:30~午後9時 (オーダーストップ8時45分) 定休日:木曜日 駐車場:4台 |
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■戦い終えて・・・ 「蕎麦粉は寒くなればなるほど、ほんとは美味しんです。 いつかは手打ちでやりたいな・・・」 やっと一息ついたところで、いろいろお話を聞くことができた。 「ここは出汁がいいでしょ!」と北さん。 「うちは本がえし。京都はなんといっても 出汁の文化ですからね」と秀人さん。 京料理を参考にして、そこに独自のアイデアを 加えているという秀人さんこだわりの味は、 1年通っても十分価値のあるものだ。 「ところで、権兵衛さんには、にしんそばがないですね、北さん」 「にしんそばで有名な松葉さんと初代がお友達だったそうで、 競合する品を出さなかったそうですよ・・・・。 その代わりここには[ 穴子そば ] があるんです」 と北さんが説明してくれた。 この日、私は権兵衛さんのファンになった。 文)八田雅哉 写真)北住邦彦 |
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二代目正二郎さんの作られた 手製真空管アンプから流れる BGMを聞きながら 1階のお店でも食事ができます。 |
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京都のグルメ「食べる」
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京都のグルメ「呑む」